第2回 具体的な一人と向き合うということ

第2回 具体的な一人と向き合うということ

○「伝わってる?」という不安


コピーライターの仕事は、ある企業の商品やサービスを、不特定多数の人に買っていただくための売り言葉を開発することです。わたしがデビューしたのは、NTTドコモのラジオ付きケータイ(昔はそんな商品があった!)に書いた「あれば、聴く。」というキャッチフレーズ。誰に言うでもなく、不特定多数の目に見えない何千万人というケータイの利用者に選んでもらうための売り言葉です。

ネット広告もテレビCMも同じようなもの。16年もの間、企業の要望を受けて、不特定多数の目には見えない人たちに語り掛けることを続けてきました。そして、どこかで「この言葉は届いているのかな」と疑問に持ったことも事実です。

○逃げずに向き合う


わたしが気づきを得た大きな経験は、リラクゼーションセラピストとしての仕事にありました。

その仕事は、もみほぐしに来られたお客さまを、一人で最後まで担当し、少なくとも来られたときよりも楽になって帰っていただかなくてはなりません。目に見えない不特定多数のお客さまではなく、いま目の前のベッドで横になっておられる「その人」と60分なり90分なり向きあって結果を出す。こういう経験を、わたしはこの時、はじめてしたのです。

揉みほぐしの技術が追いつかない駆け出しのころは、お客さまからのご要望に十分にお応えできず、それでもまだ時間が終わらない状況で逃げ出したくもなりましたが、途中で投げ出すわけにもいきません。どうして良いか分からずとも、ひたすらできることを精いっぱいやって、汗をかきながら終えたこともありました。逃げずに向き合う経験でした。しだいに、わたしはお客さまのことをよく観察することを覚えました。観察していくと、気づきがあります。

「この部分が凝っているということは、あそこをほぐせばいいはずだ」
「このパターンは、あの方法が使える」
「この張り具合なら、あの手でいこう」
など、経験を積まれたセラピストなら誰でもそうしていると思いますが、具体的な目の前のお客さまの身体と会話をしていくことを覚えました。

向き合うと、次第に自分ができる技術を超えて、「このお客さまはどうやればご満足いただけるか」「どうやれば喜んで帰っていただけるか」を想像し、試行錯誤するようになります。そして、わたしは最後に、「仕事は愛情表現」だと思ったのです。


○アピールしなくてもうまくいく集客の考え方


前回お話をしたアピールの第2段階「2)認知いただいたお客さまと関係を深める段階」は、お客さま一人ひとりと向き合うことがもっとも重要になってきます。
情報発信も、同じ。その発想が、情報発信はするのだけども、「アピールしなくても良い」という感覚になります。つまり「わたしは」「うちのお店は」という主語から遠ざかり、お客さま主体で物事を考えはじめる。

ペルソナを設定するという手法がありますが、それよりももっと具体的でリアルな相手を対象として語りかけることが大事。長らくわたしは不特定多数の人に語り掛けることを仕事としてきましたが、セラピストの仕事を通して、目の前の具体的な一人を強烈に思い、手を尽くすことを覚えた。「手」を「言葉」に変えれば、情報発信に生かせます。では、どのような言葉を尽くすのが良いのでしょうか。集客や企業経営における言葉の役割とその機能を次回はお話いたします。


第3回 言葉と経営
第4回 すべての起点は、言葉
第5回 「言葉と経営」第2弾。経営者も起業家も在宅でできる!実践プログラムのご案内

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