第6章(3)日本人は忘れてないか? 「生きる」美しさ
収穫後、彼らの家「ゲル」に案内され、ゲストを迎える儀式を受けた。
馬乳酒(ばにゅうしゅ)を初めて呑んだわい。差し出されるままに、どんぶりいっぱい呑み干したら、即効で腹が痛くなった。洗礼だ! あれ、ほんの少しだけ呑めばいいみたい。
べ、便所! 駆け出した外は砂漠。
夕暮れ、砂塵吹く大地に、オイラの分身が沁みていく。
義理の息子であるソガロさんが、俺のために羊を一頭バラすと言う。最大級の歓迎だ。
彼が取り出したのは、刃渡り十数センチばかりの小さなナイフ。
後ろ足を押さえてろと言うので、仰向けにした羊の後ろ足を押さえていると、おもむろにソガロさん羊の腹にチョンとナイフを刺し、開いた腹の小さな切り口に腕を突っ込んだ。
なっ、何!
まさぐるように胸の辺りの何かを握ると、グイッと引っ張った途端、哀れな羊は痙攣を起こし、白目向いてご臨終。
何をしたの!?
腹から心臓に手を入れて大動脈を外した(?)らしい。そうするコトにより、胸膜に血が溜まって、大地に血をこぼさずに済むと言う。遊牧の民にとって、大地に血を落とすのは神に失礼とされているのだ。
ソガロさん、小さなナイフを巧みに使い、皮を剥ぎ、脚を落とし、骨を外し、内蔵をきれいに取り出し、肉を部位ごとに分けた。
その間、たったの十五分。
スゴい!
この時ばかりは農民ではない狩猟民族の感性を感じた。
俺は、ゴビ砂漠のど真ん中で「漢」を見た。
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