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【参加レポート】事業構想ブートキャンプ2022春 1日目@湯河原

 ビジネススクールでの勉学を修め、晴れてMBAホルダーとなった訳だが、「事業構想に必要なスキル」となると、まるで不足している自覚がある。自己の課題感や使命感・想いを起点に価値を創造し、実際に事業構想するまでの道のりは、どのようなステップで進めばよいのか。「Beyond the MBA」 このキャンプに参加することで、具体的な道筋のイメージが持てるようになるのでは… 自分の中でそんな期待がじわりと熱を帯びて行くのを感じた。

 このブートキャンプは小山龍介准教授により設計されたプログラムで、「ビジネススクールでの学びを経た上で、さらにその先の事業構想に必要なスキルを身につけるためのキャンプ」を目的としている。
「その先の事業構想に必要なスキル=Beyond the MBA」を小山准教授は以下のように定義している。

  • MBAの前提となるのが、意思決定に必要となる情報がおおよそ入手できていること 

  • その前提があれば分析、計画は有効であるが、実際の世界ではすべての情報を手に入れることはできないし、リアルタイムに状況が変化している

  • こうした変化し続ける世界でどのような意思決定を行うのかというスキルがBeyond the MBAである

さらに、准教授は「Beyond the MBA」の構成スキルは、ビジネス・インプロビゼーション、アクション・ラーニング、アートシンキングの3要素であるとしている。これらのスキルを眺めてみるとMBAの授業ではほとんど扱われていないものばかりだ。
 2022年3月末の桜の季節に、学びに対して貪欲で、知的好奇心旺盛な仲間と共に、神奈川県湯河原温泉と真鶴市での、2日間にわたるブートキャンプに参加した。カリキュラムは以下の内容で実施された。

第1日目:3月26日(土)
OODAループ研究
ビジネス・インプロビゼーション
インプロゲーム体験:Inpro Shiritori/Knife & Fork Game/Thank You Game/Present Game/Yes And Game/Shared Story/Listening Skill

第2日目:3月27日(日)
しょうぎ作曲
Field Work in 真鶴:美の基準をみつけよう 


第1日目

OODAループ研究

 キャンプ初日、OODAループへの理解を深めるセッションでは、活発な議論が展開された。
 OODAとは、Observe(観察)-Orient(情勢判断・方向づけ)-Decide(意思決定)-Act(行動) の頭文字を取ったもので、アメリカ海兵隊の基本原則と位置付けられている。これは、アメリカ合衆国の戦闘機操縦士であり、航空戦術家でもあるジョン・ボイド氏が発明した意思決定方法だ。元々は、危機から40秒以内に状況を逆転させるための意思決定方法であったが、戦闘にとどまらず、戦略、政治、ビジネスやスポーツ様々な分野に広く活用されるようになり、「どんな状況下でも的確な判断・実行により確実に目的を達成できる一般理論」として欧米で認められるに至っている。
(参考:入江仁之(2019)『OODAループ思考入門』ダイヤモンド社)

 書き添えておくと、品質管理や改善で用いられるプロセスのPDCAは似て非なるものである。PDCAはPlan-Do-Check-Actionのサイクルを繰り返し行うことで、継続的な改善を促す技法で、計画のあることが大前提となっている。この点が、決定的にOODA Loopとは異なる。
 小山准教授は、OODAにおけるObservation(情勢判断)が、このプロセスのなかでも鍵となる部分であると強調している。観察して得た情報を、自らの遺伝的特質や社会環境、過去の経験にもとづく断片的なアイデア、情報、推測、印象などと組み合わせ、「多面的で暗黙的な相互言及」をつくり出す。そして、それが新たな情勢判断となるとのことだ。
 准教授はさらにこう指摘している。OODA Loopは個の創造性や自発性を損なうことなく、組織全体の調和を実現する必要性に焦点を当てている。

・「暗黙の誘導・統制(implicit guidance and control)」による調和
・「暗黙のレパートリー(implicit repertories)」の拡充
・ 情勢判断を醸成する学習ループがある

 情勢判断の段階では、文化的遺産・個人のおいたち・分析・経験・心理学的知識、共有されている暗黙の価値観などを総動員し、「全体をとらえ察知する」瞬発力が必要となる。この時、情勢判断は理性と直感の境界線にあるらしく、行動経済学でいうところのSystem1と2の中間に位置し、未だ概念化されていないという指摘は非常に面白く、興味を惹かれた。
 さらに、セッション中のある参加メンバーのコメントに深い示唆があった。剣道では「全体を見て、撃つ場所を凝視せず攻める」そうだ。全体を見て判断、察知し、落としどころを瞬間的に決める。Observationとはそういうことなのだろう。OODA研究を経て次のセッションでは、即興力を身に着ける様々なゲームに取り組んだ。

ビジネス・インプロビゼーション

 インプロビゼーションとは即興劇のことで、ハーバードやMITなど、世界的なビジネススクールでも注目され、『ビジネスインプロ』として、ビジネスパーソンのトレーニングで使われているそうだ。
 なぜ即興がビジネスに役に立つのか?考えてみれば、人生においてもビジネスにおいても、瞬間ごとのコミュニケーションは全て即興だ。前もって準備していた自分の計画どおりに進むことはまずない。この観点から、VUCAの時代と言われる今、これまでに経験したことのないスピードで変化し続ける環境に対応する力を養うためには、即興力=想定外対応力は有効だろう。
さらに、MBAの学びで叩き込まれた、フレームワークや定量的数値や理論をベースとした発想、論理的思考の枠から飛び出し、柔軟な発想ができるトレーニングになるだろうと感じた。実際、頭と体を総動員し、今という瞬間にエネルギーを向け集中する訓練は、OODAにおけるObservationの「全体」を見ることにも通じ、ホリスティックなアプローチと感じた。
 今回のセッションで、インプロは、AdvanceとExtendの2軸で構成されていることを学んだ。ExtendはOODAでいうObservationで、AdvanceはOrientationにあたる。

Extend=Observationで深く観察、情景をありありとイメージし、非言語の観察により身体的な感覚を得られる水準まで没入し、味わいつくすことができると深い観察ができるようだ。イメージした情景に瞬間移動してなりきることで(実際はこれが相当難しい)先の未来を設定するOrientationへとうまく移行することができる、と理解した。具体的には、以下のさまざまはインプロゲームに体を動かし五感を働かせて取り組んだ。実際に体験してみて、自分自身が普段の生活の中でいかに五感を怠けさせ、鈍らせているかを強く実感した。逆に言うと、その領域は伸び代があり、鍛錬により感度を上げられる可能性を体感した。

Impro Shiritori

メンバーで輪になり、前の人が言った言葉から連想する単語をテンポよく述べていく。
例:旅行⇒イタリア⇒ベネチアングラス⇒運河⇒ゴンドラ⇒ピザ

感想:あらかじめ準備しているとそれに引っ張られて柔軟性が失われる。直前の人の発話にフォーカスし、言葉からでなく情景を絵のようにイメージすると、発想が湧きやすく、言葉につまってしまうことがない。

Knife & Fork

相手の表現をきちんと見てフォローする事が大きなポイントとなる、言葉を使わずにコミュニケーションを取りながら物の形を身体で表現するゲーム例:3-4人のグループに分かれ、Aがジェスチャーでモノを表現し、それを受けB,Cも表現に肉付けしていく。

感想:表現しているものを察知して、その表現に調和するものをジェスチャーで加えていくのは、かなり難しく、理解力・共感力・表現力が瞬発的に要求されると感じた。

Thank You Game

2-3人で行うゲーム。Aはポーズを取って止まる。⇒BはAのポーズを生かして、相手役としてポーズを取る。Cがその2人の作った写真にタイトルを付ける。AとBは自分の意図した答えがCから出てくると盛り上がる。

感想:これも瞬間的な理解力・ひらめき力が必要と感じた。

Thank You Gameの実演中

Present Game

メンバーが円になり、一人が手で物の形を作って相手に渡す⇒受け取った人はもらった物に名前をつける⇒次の人に手渡す⇒次々とアイディアを付け加えていき、物の状態(色、形、材質等)をはっきりさせていく。この時、前の人のアイディアを否定せず、受け入れあって情報を加えていく。初めは「手で作った形」という見えない物が、お互いに同じイメージを共有する事で、はっきりと見えてくる。

感想:自分が予測していなかった思いがけないものにプレゼントが変貌していく中で、もらったプレゼントを大切に他の人のアイディアを尊重して、さらにイメージを膨らませていく受容と柔軟性が必要と感じた。

Yes And Game

2人組になり、Aが話をする。BはAの話を聞き、その内容に合意し、さらに新情報を付け加えていくことで,対話を続けるゲーム。

感想:即興性が高く、相手の話を肯定し受け入れさらに膨らませていくには、瞬発力が要求されると感じた。

Shared Story

5人ほどのグループに分かれ、お題を設定。1人目から順に、場所や人物などをできるだけ具体的に描写していく。2周ほどすると、話が予想外の展開を見せる面白さがある。感情移入し語るとストーリーにリアリティが生まれ、話の起点となった人の「こうありたい」に沿ったストーリーとなる。

感想感情移入がうまくできないと、物語が平板になり、リアリティーを感じない物語で終わってしまう。荒唐無稽にならないように、かつ話を膨らませていく想像力が瞬発力と同時に必須と感じた。

Shared Storyを発表している様子

Listening Skill

二人一組になり、AとBが正面に向き合って座る。Cはその様子を観察する。
1度目はAがInner Listening(聞いているフリ)で、Bが話していく。2度目は、Focus Listening でAの話をちゃんと聞く。3度目は360°Listening楽しく話に耳を傾ける。

感想:聞き手の姿勢により、AとBの間のエネルギー共有や、同期・シンクロの様子が全くことなることが、明確に感じられた。


初日のセッションを終え、夕食後にコンビニで調達したビールやワイン、日本酒とささやかなおつまみで親睦を深めた。懇親会の後半は、参加メンバーが思い思いに好みの曲をリクエストし、小山准教授がギターで即興演奏、リアルインプロにみんなで大いに歌い盛り上がった。特にあいみょんが心に残る贅沢な時間となった。(文:瀧澤 真由美)

懇親会の様子

(参考)
まいにちdoda 「デキる社会人は演技を学ぶ?」話題の「インプロ」が仕事に役立つ5つの理由」  https://mainichi.doda.jp/article/2018/09/10/100.html
特定非営利法人まねきねこ 「インプロ(即興演劇)やってみよう!」https://manekineko.or.jp/kodomo-impro/what-is-impro/impro-games/
INPRO KIDS TOKYO 
https://improkidstokyo.com/about/



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