答案作成分析③コンクリート標準示方書「維持管理編」に基づく維持管理の手順

 Ⅱ-2問題ではよく「業務手順」を問われます。ここでは,Ⅱ-2問題で頻出の維持管理に関する問題を対象として,コンクリート標準示方書「維持管理編」に基づいて業務手順について考えます。

 なお,2018年制定版から「水」の作用に関する内容が拡充されており,土木学会として水の作用について注視していることが確認できます。そのため  ,今後維持管理の問題が出た際は,水がかりや水への対策についての記述は必要になるかと思います。本記事はその点についても留意して記載しました。

 2018年制定の維持管理編:本編,3章 維持管理の方法では,構造物の維持管理の手順は,
 
 維持管理計画:点検 ⇨ 劣化機構の推定 ⇨ 予測 ⇨ 性能の評価 ⇨ 対策の要否判定 ⇨ 対策実施 ⇨ 記録 ⇨ 点検(必要に応じて維持管理計画の見直し) 

 と説明されています。

 
 点検には,書類調査,目視たたき調査,非破壊検査,局部的な破壊を伴う調査,実構造物の載荷試験・振動試験調査等があり下記の事項が確認できます。
 書類調査・・・設計内容(かぶり,配筋(鉄筋径,強度),断面寸法)  や,施工記録(使用材料,竣工時期(経年)等),設計基準
 目視たたき調査・・・ひび割れ,浮き等の劣化状況,水がかり等
 非破壊検査・・・電磁誘導法等での実かぶり,配筋等,反発度法で圧縮強度推定、自然電位法で腐食範囲特定 等
 局部的な圧縮破壊・・・コア採取で中性化深さ,塩化物イオン濃度,配合推定(水セメント比等),はつり法で鉄筋腐食状況や,はつり後の鉄筋採取で引張強度(耐震補強時に行います)等
 載荷試験,振動試験・・・部材の断面剛性(設計上のたわみとの比較等) 

 劣化機構の推定では,点検で得られた情報から,中性化なのか,塩害なのか劣化の主な要因を推定します。その際,周辺の構造物の劣化状況を参考としたり,外観上の劣化状況(ひび割れの入り方等),環境作用(離岸距離,凍結防止剤,水がかり,温泉地域(化学的侵食),寒冷地域(凍害))等を参考とします。

 劣化の予測では,中性化では√t則,塩害では塩化物イオンの拡散予測(フィックの拡散方程式)等で予測します。その際に,表層品質が劣る場合,ひび割れがある場所では,中性化速度や拡散係数は大きくなることに留意します。

 性能の評価では,残存予定供用期間を考慮し,少なくとも点検時点と供用期間終了時点で性能を評価する必要があります。
 性能の評価方法としては,
 外観上のグレードによる評価・・・各劣化要因別の劣化過程(潜伏期,進展期,加速期,劣化期)との関係等から判断
 設計での評価式による評価・・・上述の√t則や拡散式により評価,鉄筋腐食は鋼材の断面減少として耐荷力を評価
 

 対策の要否判定では,性能の評価を基に判定し,劣化要因別に必要な対策を講じます。例えば,
 中性化・・・断面修復,再アルカリ化 等
  塩害・・・断面修復,脱塩工法 等 (マクロセル腐食に留意)
ほとんどの劣化要因では,「水」の作用が大きな影響があるため,
 水への対策・・・水処理(止水,排水),表面防水
 力学的性能の改善では,
 増厚,巻き立て,プレストレス導入工法(外ケーブル等)等があります。

 対策の実施後は,対策の効果の確認(再アルカリ化では,中性化深さの確認でアルカリ性が改善されているか等)を行う。また,対策の有無に関わらず,劣化の進行程度を都度確認し,予測の修正を行うなど,維持管理計画を必要に応じて見直し,診断のサイクルを回していく必要があります。

  以上が,コンクリート標準示方書「維持管理編」に基づく維持管理の手順となります。

 上記を踏まえ,維持管理の問題が出た際の基本的な業務手順は
①机上調査(主に書類),②現場調査(目視調査や環境の確認),③詳細調査(劣化要因に応じて検査項目を選定),④劣化機構の推定,⑤劣化の予測,⑥性能の評価,⑦対策の選定,⑧対策実施がベターではないかと考えています。(もちろん,問題に応じて変更しますし,これが絶対正解という話ではありませんのであくまで参考としてください。)

 維持管理の問題として,H29(2017)_Ⅱ_2_3(表層品質確保と表層品質の劣る構造物の維持管理)H27(2015)_Ⅱ_2_4(剥離剥落箇所の維持管理),(R1(2019)_Ⅱ_2_3(温暖地域のひび割れ補修)近日更新予定)の骨子,答案例を挙げていますので参考に頂ければ幸いです。


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