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斎藤工と医師たちの恋愛事情

「医師たちの恋愛事情」がTVerで配信されている。「ナースのお仕事」(1996)、「Dr.コトー診療所」(2003)、「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」(2008)など、病院を舞台にしたフジテレビ系列のドラマは数多く存在するが、その中でも特に好きな作品だ。2015年4月期放送、主演の斎藤工が石田ゆり子と見せる大人の恋の様相が美しく、人と人との距離感が繊細に描き出された名作である。

登場人物は大学病院で勤務する医師たちで、魅力的な人物ばかりである。群を抜いて際立っているのが、石田ゆり子が演じる外科医・近藤千鶴の可憐さだ。静かな佇まいの中にある芯の強さが最高のバランスで描かれていて、凛々しさと愛らしさが華奢な体から全開で放たれているのに、一片の嫌みが混ざることもない品の良さ。落ち着きある姿を常に守りながらも、見る者を魅了する精緻な立ち居振る舞い。「近藤千鶴」は、石田ゆり子の身のこなしのみによって完成される「理想の医師」であったと思う。

第1話、そんな千鶴に変化をもたらす医師、斎藤工演じる「守田春樹」が新たに赴任してくるところから物語は始まる。経営を重んじ、出世争いが見え隠れする大学病院の気風に疑問を呈する守田に、伊原剛志が演じる年上の医師はこう諭す。

「いろんな矛盾を抱えながら それでも患者を治すために働いてるよ
 大学病院の医者たちは」

「医療ドラマであり恋愛ドラマ」と銘打たれた本作が、私の中では「普遍性のあるお仕事ドラマ・人と人との葛藤を描き出すヒューマンドラマ」に昇華された瞬間であった。

話数を重ねるたび、ドラマオリジナルの挿入歌「Addio a dio」にのせ、守田と千鶴はそれぞれのポリシーのもとに疾走していく。命をあずかる医師の職責の重みにはとうてい及ばないが、「矛盾を抱えながら、それでも」という部分には共感するところが大きく、心が強く揺さぶられたのだ。



当時、この人になら背中を預けられると思えるような同僚と、一緒のセクションで仕事をしていた。働き方改革なんて言葉、まだまだ言われ始めた初期の頃で、業界の誰もが本気になどしていなかった。私もその人も、毎晩遅い時間まで何かをしていた。価値観が非常に近い人だった。互いのキャリアと専門性を尊重しながら、領分を決して侵さず、だけども何か手助けがほしいと思ったときには口に出す前にそれを差し出し合えるような、極めて稀有な間柄だった。色恋のときめきはなかったが、背中合わせのデスクで互いの仕事に向き合う守田と千鶴の関係性に、その同僚を重ねて見ることが多かった。

どの組織だってそうだとは思うが、ご多分に漏れず、矛盾の蔓延る業界で暮らしている。割り切り方と向き合い方。守田と出会って千鶴のそれが変化したように、私のそれも同僚と共にあったことで確立された部分が強い。特に、「それでも」の部分。同じ場所にいなくとも、同じ目線の高さ・同じ速度で駆けている者の存在は、人に胆力を与え、強い気構えを形成する。


あの頃と同じ階段を、今日も駆け上がる。その走り方に、石田ゆり子のようなエレガントさはない。それでもときどき、「Addio a dio」が頭の中で流れ、私にとっての守田医師がよぎる。

私のデスクも同僚のデスクも、今は別のフロアにある。働き方改革が少しずつ入ってきて、仕事のやり方もお互いに多少変わった。されど、もしもかつてのセクションに戻るなら、やはりこの同僚と机を並べたい。あの場所で仕事をするなら、その存在なくしては考えられない。当時のような疾走の仕方はもはやできないかもしれないが、最終話の守田と千鶴がそうであったように、この人とであれば、新しい最適速度を見つけていけるのではないか、淡い夢を一人でみている。


あとがき

「医師たちの恋愛事情」、本当に好きなドラマです。コンビニで買った遅い晩御飯を食べながら、夜中に見ていたことを思い出します。似通った部分はあるものの、「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」(2014)の北野先生よりも守田先生が、「逃げるは恥だが役に立つ」(2016)のゆりちゃんよりも千鶴先生が、私は好きでたまりません。揃いの術衣や白衣を着て仕事に奮闘する姿、同じところに立って同じものを見ている二人の描かれ方が本当に愛おしい。思えばこの頃ぐらいからテレビドラマに生きがいを見出し始めたような気がしています。

ドラマなんかの見逃し配信が始まりだしたのもこれぐらいの頃だったでしょうか。TVer 、GYAO!あたりのサービスは、インターネットとコンテンツの在りように変革を起こしたし、私自身もライフスタイルが一変した認識を持っています。

録画も便利ですが、やはり溜まるので。1週間限定が基本ではありますが、視聴リズムの生起のさせ方として、最適なバランスのような気がしています。


出典

[1] 日本テレビ「医師たちの恋愛事情」 (公式Webサイト)
https://www.fujitv.co.jp/b_hp/ishitachi_no_renaijijou/

[2] TVer「医師たちの恋愛事情」#1「ルールと衝突!熱血ドクターが恋に落ちたのは鉄の女!!」 (2020.7.5公開終了)


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