紅ゆずると宝塚歌劇団

U-NEXTに宝塚歌劇団の上演作品が登場している。その数なんと50作品。劇場で見たことのある公演もいくつかある。まずは1本、「THE SCARLET PIMPERNEL」をさっそく視聴した。

宝塚歌劇団・星組による「スカーレット・ピンパーネル」(2017)は、フランス革命時のパリを舞台にした作品であり、2019年10月に退団した「紅ゆずる(くれないゆずる)」と「綺咲愛里(きさきあいり)」の大劇場トップお披露目の公演でもある。この2人の退団公演「GOD OF STARS-食聖- / Éclair Brillant」は、映画館のライブ・ビューイングで拝見した。退団に際しての「サヨナラショー」は、サービス精神あふれる紅ゆずるの輝きに満ちていて、感極まって何度も泣いた。なんと魅力的なお人であろうかと、上演中、感情が終始突き動かされたのを鮮明に覚えている。宝塚のファンを名乗るほど、深い知識があったり、劇場に通い詰めていたりするわけではないのだけれど、これから先多くの公演を見たとしても、タカラジェンヌ紅ゆずるの存在は、自分にとって特別な場所にずっと残っていくだろうなと確信したのである。

そんな退団公演を思い返しながら見た「スカーレット・ピンパーネル」。約160分、ボリュームある2部構成の舞台があっという間だった。千秋楽とはいえ、お披露目公演にして既にトップの2人から惜しげもなく放たれるスター性に虜になる。まばゆい婚礼衣装に身を包み、華麗なデュエットダンスのさなかに交わされる目線のやりとりと息づかい。生で見る舞台の迫力に勝るものはないが、こういう表情をはっきりと捉えることができるという点で、映像にも別の魅力が見出せる。優美な所作、どうにかなりそうな色気、愛嬌。人の持てる輝きを極限まで高めた、芸術の一つの境地であるように思う。そういうものを途絶えさせることなく脈々と受け継ぎ、何度でも夢を見させてくれる宝塚の世界が大好きだ。

舞台の端から端まで、寄っても引いても隙のない、相当に磨き上げられた劇場空間。衣装も音楽も舞台装置も、どれをとっても美しく、隅々まで行き届いた演舞にはため息しか出ない。それだけの舞台の上で、全てを背負って立つ主役の神々しさよ。


音楽がホールに響く。高らかな歌声、軽やかな足さばき。片目を閉じたスカーレット・ピンパーネルが直後にやさしく微笑むその瞬間、どこまでもついていきたくなる後ろ姿に今日も叶わぬ恋をするのだ。


あとがき

全てが丁寧につくりこまれている宝塚の舞台が好きです。大切に守り抜かれてきたものがあることが真摯に伝わってくる。男性とは、女性とはなんであろうかとふと考えたりもするのですが、結局どの演目を見ても最後まで結論は出ないままです。タネも仕掛けもあるんだろうけれど、次々と展開されるレビューを見ていたらそんな考え事もぜーんぶ吹き飛んでしまいます。大階段にはそういう魔法がかけられている。わりと本気で思います。


人前でしゃべる仕事をするとき、入念に準備をしたものが、ほんの限られた時間で役目を終えることを嘆いたところ、「その場では3分で消費されるものであっても、50人が見ていたらその価値はかけ算で何倍にも変わっていくだろう」と当時のボスに言われたことがあります。「たとえ見る者が少なかったとしても、あなたがそれを100回見返すなら、そのことが価値だ。人に披露するものであるなら、100回先も胸を張って愛せるものを出しなさい」とも。封印したものもありますが、当時つくったものをブラッシュアップして、傍らにおいているものもあります。ときどき助けられます。

劇場文化がいよいよ窮地にある今日この頃。不安な出来事も多くあって、心配が絶えません。それでも長く続いているところにはそれなりの蔵があって、これまで積み重ねてきたものの心強さを感じたりします。U-NEXTで見る宝塚、次はどれにしよう。画面越しですが結構元気出ます。オススメです。


出典

[1] U-NEXT「THE SCARLET PIMPERNEL('17年星組・東京・千秋楽)」
https://video.unext.jp/title/SID0049677

[2] 宝塚歌劇(公式Webサイト)
https://kageki.hankyu.co.jp/

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