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マイケルジャクソンと星野源

日本全国、どこだって状況は同じだと思うが、ウイルス禍の波が迫ってきているのを日ごとに感じている。幸いにして健康に暮らすことができているものの、自宅待機を急遽余儀なくされる事態もついに経験し、塞いだ気持ちでしばしを過ごした。いま取りかかっている案件においては、自宅で進められるものはそう多くはない。やりたいことに歯止めをかけねばならない口惜しさと焦燥を抱きながら、いつもの数倍にも感じられるゆっくりとした時間をただひたすらに重ねていた。

外からの連絡を取り損ねることがないよう、携帯電話は常に傍らに置く。大きめに設定した着信音が鳴るたび、弛緩した穏やかな空気がきゅうっと締まる。結果的には些細な業務連絡であったとしても、どうということはない短時間の通話を終えた後、行き場を失った緊張感はなかなか消えず、閉じた部屋に長く留まり続けた。


一日の終わり、ひと区切りしたときに聞く人の声を、いつにも増して愛おしく感じていた。気の滅入るニュースはあえて遠ざけ、好きなもの、楽しいコンテンツだけを意図して選ぶ生活は、緊急事態宣言下にあった8カ月前の記憶をよみがえらせる。種々の配信サービスが今ではすっかり充実してきたことに感じ入りながら、その幕の上がる刻を自宅にて待つ。


贔屓の人の変わらない声が、距離を飛び越えて届く。「君の声を聞かせて」とばかりに、無数のパケットの到来に胸を躍らせる様が、まさに星野源の「SUN」だった。

君の声を聞かせて 雲をよけ 世界照らすような
君の声を聞かせて 遠いところも雨の中も すべては思い通り
8thシングル「SUN」より「SUN」(2015)

2015年にリリースされたこの楽曲は、星野源が自らの音楽のルーツを語る際にしばしばその名を挙げる、故マイケル・ジャクソンへの想いを込めた歌としても有名だ。どこにだって届いてその場を確実に照らす太陽の光になぞらえられた、唯一無二のカリスマの輝き。

かつて一世を風靡した、マイケル・ジャクソンのムーンウォーク。重力をとり払うかのような軽やかさが音楽と調和し、見る人の気持ちを一層高く昇らせる。私にとっては、「夢の外へ」のミュージックビデオで星野源が見せたステップも同じだ。ストリングスの伸びに合わせて心地よく滑る四肢。何度でも再生して何度でもため息をつきたい、そんな余韻にひたっている間、ふいに「歩き出せ」の声が響き、背中がじわっとあたたまる。

ときは2020年、冬。「君の声」はもはや、ただ楽しさをくれるだけのものではない。先の見えない世界を生きる者たちがすがる救いであり、希望だ。「君」にもたれかかって生きていることを自覚しながらも、どうかそれが赦されるようにと願うほかない。



あとがき

「星野源のオールナイトニッポン」、12月15日の「弾き語りライブ in いつものラジオブース」が刺さりました。いつものラジオの時間帯、合間にコマーシャルなんかも挟みながら生演奏が続いていく感じ、とにかくリアルタイム感がすごくて鳥肌が立ちました。

11月にNHKで放送された「おげんさんといっしょ」第4弾とか、7月の配信ライブ『Gen Hoshino’s 10th Anniversary Concert “Gratitude”』とか、そういう豪華な演出や映像も一つの楽しさですが、音だけで構成されたラジオの世界のパフォーマンスに惹きこまれました。

顔も姿も見えないライブだからこそ、ソーシャルディスタンスとか無観客とか、そういうことを意識せず、いつものオールナイトニッポンの弾き語りライブの感じで聞けたのかなと思います。まずもって、「いつもの」の響きが良い。この世界にかろうじて残されたわずかな「いつもの」が、この先も続くようにと祈るばかりです。


出典

[1] YouTube「星野源 – SUN (Official Video)」(2015.5.13)

[2] YouTube「星野源 – 夢の外へ (Official Video)」(2012.6.22)

[3] Twitter 星野源 Gen Hoshino (2020.12.16)
https://twitter.com/gen_senden/status/1338863490765766661



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