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リモートとタイムマシーン3号

リモートによる映像配信が乱立して久しい。演者同士の対面でさえもはばかられる昨今、Zoomを中心として多くのコンテンツが創出されている。

ネットワーク環境や機器の調子によっては、音声や映像に乱れがあったり、タイムラグが生じることもしばしばだ。贔屓のコンテンツであれば、そんなノイズを気にもかけずに耳を傾けることができるが、なんとなく流しておくにはいささか聞き苦しいものも多い。この状況下だからこそ生まれた数々の企画の恩恵にあずかり、支えられてどうにか生きている側面も多分にあるので、気になる点ばかりを取り沙汰するのは気が引けるのだが、久しぶりにテレビを点けると、その画質・音質の良さ、なめらかな映像にほっとする。4Kでもなんでもない普通の放送を、こんなにも高解像度に感じるなんてと思っていたのもつかの間、最近ではテレビ番組にもリモートの波が侵食しつつあり、油断はできない。


さて、そんな荒れ狂うリモートの嵐の中で、出色の出来ともいえるYouTubeコンテンツがあるので紹介したい。お笑いコンビ「タイムマシーン3号」の「リモート漫才 ネタ合わせ」シリーズである。初出は4月26日、動画は山本のコメントから始まる。


「われわれ 外出自粛で もう2か月くらい漫才をやっていないので ちょっと感覚が鈍っているかもしれないから リモートでネタ合わせをしようかなと思います」


題目として掲げられているのは「ネタ」でも「トーク」でもなく、「ネタ合わせ」。ただの一ファンに過ぎない私には、これが彼ら本来の「ネタ合わせ」の姿なのか、「ネタとして披露しているネタ合わせ」なのかを知る術はない。それがたとえどちらであっても、もしくはどちらでもなくても、もう全部、どれだっていいよなあと思うぐらいには、二人がかけ合う様が自然体に見える。居心地の良さを感じるYouTube。初めての感覚だ。



5月4日、テレビ朝日「かみひとえ」の企画「テレワーク漫才GP」は「今だからできるお笑い」として放送された。博多華丸・大吉のコメントや編集の妙もあり、十分に楽しめる構成ではあった。しかしだからといって、テレワーク漫才のほうが良いなあとは決してならない。そもそもが対面を前提としてつくられたネタであるという点を差し引いたとしても、やはり演者の持ち味を100パーセント発揮するには、種々のノイズがあまりにも気になりすぎる。これはそういうノイズを楽しむ、刹那的ではかない企画だ。


話をタイムマシーン3号に戻す。「ネタ合わせ」の特異性は、100%でなくともよい点にある。ネタを忘れて間が空くぐらいは序の口で、脱線もあれば、山本の仕掛けるトラップもある。リモート特有の音声の乱れも、失敗も、笑いの小道具に変えていく。そういう寛容なるあそびの部分が、リモート環境のポテンシャルとあいまって、ひたすらに心地よい温度を保ち続ける。

いつまでも浸かっていられるような、ぬるめの温泉。いま体に必要なのはそれくらいの温度だ。そしてもっと欲を言えば、気の向くままに長湯がしたい。

現代人は弱くも欲張りで、互いが「おはよう」と言えるだけで幸せなのに、こんな状況であっても、何かそれ以上のものを必要としてしまう。されど長期戦になるともいわれるこの期間、身を削って振り絞ったようなコンテンツは、ひりひりと沁みて痛い。だから今は、持続可能性のみえるものにすがって身をゆだね、ただ揺蕩う(たゆたう)ばかりだ。


今日までに公開された「ネタ合わせ」は全部で6本。これまで生み出されたパワーワードや、新たなキャッチーなフレーズが続々と出てくるのに、どれだけ重ねても胸やけをしない。これぞタイムマシーン3号、「太らせる」の世界。在宅ワーカーの飯がすすむ。


あとがき

タイムマシーン3号の漫才が大好きです。名作揃い。YouTubeのオフィシャルチャンネルでも豊富に公開されています。ここまでやるの!?と思わないこともないけど、そういうとこも含めてやっぱり好き。せめて再生数ぐらい貢献させてください。

関さんの発声、印象的で昔からすごく好きなんです。思いっきり笑わせた後、ネタ終わりの最後の「ありがとうございましたー」でもインパクトを残して捌けていく。これ、舞台で見ると相当刺さるんですよ。そういうの本当に巧くてずるくって、そういうとこだぞーって言いたくなる。

取り上げたのは「リモート漫才 ネタ合わせ」ですが、もちろん本ネタもぜひ。愛すべきセンテンスであふれてます。おなじみのネタを復習してからリモート版を見る楽しみ方もあり。ぜーんぶ公式チャンネルでできる、夢みたいなYouTube。


出典

[1] YouTube「【公式】タイムマシーン3号 リモート漫才 ネタ合わせ 太らせる」(2020.4.26)


[2] テレビ朝日「かみひとえ」(公式Webサイト)
https://www.tv-asahi.co.jp/kamihitoe/#/?category=variety

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