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初めて会った人の印象が、その国の印象になるということ。



もう20年近く前のことだ。


当時20歳の若者だった私は、大きな荷物と希望だけを抱えて、一人空港にいた。
人生で初めての海外旅行に行くためだ。

初めてにもかかわらず、私は日本の裏側である中南米を行き先に選んだ。

今思い返しても、無謀だったと思う。
飛行機で何時間もかかるし、アメリカで乗り継ぎもあるしと、初めての一人旅としてはかなりハードルが高い。

しかし当時の私は若く、世間知らずだった。

日本以外の国の場所をよくわかっておらず、「どうせ行くなら好きな場所に行こう!」と、選んだのが中南米だったのだ。


英語もロクに話せない。
しかも、中南米の公用語が英語ではないことすら、現地に着くまで知らなかった。

そんな無知で無鉄砲な私は、辞書と観光ガイドを握りしめ、緊張半分、楽しみ半分で、飛行機に搭乗した。


初めて一人で乗る飛行機。
機内食のメニューを選べることすら知らなかった私は、CAさんの「チキンオアフィッシュ?」の質問にすら答えられずにいた。

その時、さすがに「こんなことでこの先大丈夫なのか」と、不安になった。

その時、隣の席に座っていた外国人男性が声をかけてくれた。


「チキンとフィッシュ、どっちがいいか聞いてるんだよ」


そう教えてくれた男性は日本語がとても上手なアメリカ人で、日本で数年英語の先生として働き、母国に帰るところなのだと話してくれた。

私は彼に、この旅が初めての海外旅行であること、遺跡が見たくて中南米を選んだこと、すごく緊張していることなど、たくさんのことを話した。


「遺跡を見に南米まで行ってしまうなんてすごいね。まるで、インディージョーンズだね。インディアナガールだ」


そう言って笑ってくれた。
彼と話したことで、私の緊張はかなり和らいだ。


彼は私に、乗り継ぎの方法や出入国カードの書き方など、色々と丁寧に教えてくれた。
あまりにも経験のない私を心配してか、乗り継ぎのロサンゼルスに着いてからも、次の搭乗場所までついてきてくれた。

彼とは記念に一枚だけ写真を撮り、お礼を言って別れた。


その後の中南米旅行は波瀾万丈だったけれど、行きの飛行機で親切にしてもらったおかげで、私は前向きに旅をすることができた。

そして、彼が全てじゃないとは思いつつ、私の中で「アメリカ人」の印象が良くなったことも事実だった。



それから10年近く経った、ある日のこと。 
私はあれから何度も飛行機を経験し、もう機内でも空港でも戸惑うことはなくなった。海外に住み、外国語もだいぶ上達していた。

そんなある日、SNSに一人のアメリカ人から友達申請が届いた。

アメリカ人の知り合いに心当たりがなかったので、最初は不審に思ったけれど、送り主の名前をよく見て気付いた。

10年前に飛行機で助けてくれた彼と、同じ名前だと。

まさか、あの時の彼なのだろうか?

私の名前やアドレスを覚えていて、見つけてくれたのだろうか?

もう10年も経っているのに?


そう疑問に思いながらも、思い切って英語でメッセージを送ってみた。

「あなたは、10年前に飛行機で私を助けてくれた方ですか?」と。

すぐに返事がきた。


「ハイ、インディアナガール」


その一言だけでわかった。あの時の彼本人だと。

私は彼と繋がり、あの時の感謝をたくさん伝えた。

そして、今は海外に住んでいること、あの時の旅行から無事に帰ったこと、その後のことなど、たくさん話をした。

あの時、私を助けてくれてありがとう。
あなたのおかげで、私は海外が大好きになりました。

そう伝えた。


初めて訪れる国や旅行で助けられた経験は、その人の中でとても大きなものとなる。

ある日空港で、到着ロビーに着いたばかりの外国人の男性が、行き先がわからずに戸惑っているのを見かけた。

声をかけようか迷っていると、荷物受取口にいた職員のおじさんが、彼に声をかけた。

おじさんは、どうやら英語はあまり話せない様子で、けれど、大きな声と身振り手振りで、「ディス、オーケー!?」などと説明していた。
そして、彼の荷物を運びはじめた。
それは悪い、とばかりに戸惑う彼に、「ノープロブレム!」と言って満面の笑みを見せていた。

外国人の男性はずっと、覚えたてであろう日本語で、「アリガト、アリガト」と呟いて手を合わせていた。

もしかしたら、日本に来るのは初めてかもしれない。
でもきっと、あのおじさんのおかげで、日本の第一印象は良くなったのではないか。
そう思った。

あの日、私を助けてくれた彼のおかげで、アメリカ人の印象が良くなった私のように。

誰でも初めて海外に行く時は、不安でいっぱいだと思う。

私が彼の親切のおかげで海外を好きになったように、私のちょっとした行動が、誰かの海外の思い出に大きな影響を与えるのかもしれない。

だから、もし困ってる人がいたら、勇気を出して声をかけようと日々思っている。


そう思えるようになったのは、あの日彼がくれた優しさのおかげである。



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