【詩】車輪

オリーブ畑が
風に雇われて
流動体の思い出になって
海を目指している

なみなみとつめこんできた
わたしの成長も
欠伸の中で
何気なく酸素を求めて、
いたこと、そこに、いたこと

この坂道を
単純明快に下っていく
車輪の回転と共闘しながら
まだ、反撃を夢見ている

太陽はモルヒネになって
いま を 
やわらかく
痺れさせていく

ありったけの風の倍音は
鼓膜の夜を突き抜けて
わたしのいま に なっていく

(膝の出血のなま温かい寂しさに
 母が微笑んでいたから、私は泣いていた。
 そのとき、積乱雲は
 人類の頭蓋を突破していて
 この世の果ての脳みそだった。)

いつからだろう
アスファルトの
ながいながい仮説を
抱きしめていた

あぁ、わたしは今、
進化論を
全速力で模倣している

下る、
   下っていく。
        (反撃を夢見ている。)
                 もう、
水平線の
正しさに向かって
突っ込んでいくだけだ

その力学を無視できないままに、
柔らかいおかあさんが
ゆっくり剥ぎ、とられていくよ

もう、海の、不可能な密度が聞こえる


※『現代詩手帖』2020年10月号 投稿欄 選外佳作

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?