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ことのはいけはな 立秋 第38候『寒蟬鳴』

この候のはじまる三週間も前に蜩が盛んに鳴いていたのは諏訪だった。
夕方近くに宿に着いたところ、大社の杜から響き渡ってくる音量にちょっと驚いて、こんなにも早いことを訝った。さらに部屋の扉を開けて入るとここも蜩の声で満たされている。
生命の弾む土地に来たことは嬉しい。夏の夕暮れ雲を見ながらこの歌を聞くのは好きだ。とはいえ、夏の終わりにはだいぶ早い。

一夜明け、明け方にも蜩が鳴くことを始めて知った。


*五輪避け光に風に身を預け私が私を脱いでいく蝉
*御柱佇む杜は蝉時雨頭蓋を満たす朝に夕辺に

東京に戻って、たった一度きり。
部屋の前の公的機関の庭で蜩が鳴いた。ここにきて初めてのことだった。
それは奇妙な笑い声のようだった。
2、3度鳴いて、そこで終わった。

その日は花をいける仕事があったので、その後赤坂御所の前を通って赤坂郵便局前で信号待ちをしていたら、御所の森から蜩の声がした。諏訪の大集団とはだいぶ違う。

蜩が減る、花でも昆虫でもそうだが、命は命を弾ませる。命を弾ませるものが減れば、
命は萎えて凋んでいくのは目に見えている。

*ひぐらしの鳴き合うものなく暮れなずみカラカラカラと笑いの残る
*ひぐらしのぽつりぽつりと鳴きおれば教えてあげたしあっちにいたよ

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