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ことのはいけはな 処暑 第41候『天地始粛』

自分の内側に真っ直ぐ筆を下ろし、その地に淡々と文様を描く。あるいは文様をなぞる。「粛」という文字はそんな意味を持つ。「すずしい」とも読む。そう、鈴が玲瓏となる音がするようなベタっとした空気の夏が終わり涼しい風が抜けるのだ。耳をすまさないと聞こえない。「自粛」は「自縮」ではなく、そうやって自らに耳を傾け、喧騒に耳を貸さず、粛々と己の命の奥へ旅をすることだ。樹々はずっと昔からそうしている。そうしているから時期が来ると芽を出し、伸び上がって花だって咲かせる。そうして夏を過ぎ、次の生命の場所になる。自粛とはそういうことなのだ。

真っ直ぐにただ真っ直ぐに錘垂れ茎立ち上り蜜香る夏
みどりなす闇から光みどりなす歓喜の嵐天と抱き合ひ
あの先に鹿のくるなり水の宮しばらくご覧鹿の子斑らの
厳かな唐松の森天を射し根を張ることを自粛といはむ
鈴の音の聞こえしひかりみどりごの幾千劫の産声疾し
金色に全て見えたり音も香も天の沼矛のみどり逆巻く

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