【第548回】『X-MEN: フューチャー&パスト』(ブライアン・シンガー/2014)

 2023年極寒の地モスクワ。拘束され、一箇所に集められるミュータントと人間たち、累々と積み上げられた屍の山。センチネルと呼ばれるロボットの軍隊によるミュータント包囲網は、いよいよ最期の瞬間を迎えようとしていた。キティ・プライドことシャドウキャット(エレン・ペイジ)は物体をすり抜ける能力を駆使し、仲間たちと最期の死闘を繰り広げていた。彼女の傍にはボビー・ドレイクことアイスマン(ショーン・アシュモア)、ピーター・ラスプーチンことコロッサス(ダニエル・クドモア)ら懐かしのX-MENチームがいて共同戦線を張っている。それと共に、新顔のビショップ(オマール・シー)やクレア・ファガーソンことブリンク(ファン・ビンビン)、ロベルト・ダコスタことサンスポット(エイダン・カント)、ジェームズ・プラウドスターことウォーパス(ブーブー・スチュワート)らがシャドウキャットの作戦に乗り、瞬間移動で中国へと飛ぶ。その間、チャールズ・エグゼビアことプロフェッサーX(パトリック・スチュワート)はセレブロを使い、残り僅かになったミュータントたちの生存を確認し、同じく中国へと飛んでいた。プロフェッサーXの護衛にはローガンことウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)とオロロ・マンローことストーム(ハル・ベリー)が付いており、プロフェッサーXの後ろからタラップを降りる。列の最後にはかつて何度も死闘を繰り広げたエリック・レーンシャーことマグニートー(イアン・マッケラン)の姿。ミュータントの残党はここに籠城し、新たな作戦を練ろうとしていた。

『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』、スピン・オフ作品『ウルヴァリン: SAMURAI』に続く、新『X-MEN』3部作第2弾。近未来である2023年には、レイヴン・ダークホルムことミスティーク(ジェニファー・ローレンス)のDNAを使い、軍事科学者でトラスク・インダストリーズの社長ボリバー・トラスク博士(ピーター・ディンクレイジ)が開発した量産型ミュータント・ロボット「センチネル」によって、人間もミュータントも地球内生物そのものが駆逐されようとしていた。プロフェッサーXは全ての元凶は1973年のミスティークによるボリバー・トラスク暗殺計画にあるとし、キティ・プライドの能力を使い、不老不死で不死身のウルヴァリンを1973年に送り込む。まるで『ターミネイター』シリーズや『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのような、未来を変えるための過去へのタイムスリップという大仰なアイデアが凄い。かつてウルヴァリンのメンターとなったプロフェッサーXの精神性に対し、1973年のプロフェッサーXのやさぐれ感。親友だったエリックにも、実の妹のように仲が良かったレイヴンにも裏切られ、前作『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』で脚をも失ったチャールズの哀れ。その上、 ヴェトナム戦争に教員や生徒たちが数多く駆り出され、2,3年前に「恵まれし子らの学園」を休校にする。彼はテレパスの能力を封じ込めるために、ハンク・マッコイことビースト(ニコラス・ホルト)が生成した薬物に溺れている。未来の聖人君子のようなプロフェッサーXとは対照的な堕落したチャールズ・エグゼビアの様子が今作の核となる。すっかり伸びきったヒゲ、ボサボサの長髪で嬉々として演じるジェームズ・マカヴォイが素晴らしい。最初は頼りない雰囲気全開だが、未来の様子を伝えるウルヴァリンの眼差しの真摯さに次第に心打たれ、運命を変えようと奔走する様子は、マーティが父親ジョージのケツを叩きながら、運命を変えようともがいた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を彷彿とさせる。

前作『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』では、レイヴン・ダークホルムことミスティークと関係する3人の男たち、チャールズ・エグゼビア、ハンク・マッコイ、エリック・レーンシャーとの関係が克明に描かれていたが、前作から10年後に設定された1970年代の物語でも、ミスティークを巡る四角関係が再び議題に上る。50年後の未来からやって来たウルヴァリンはあくまで四角関係の物語を補助役として下支えするのだが、本筋とは別にシリーズ史上最もセンセーショナルな登場の仕方をするのは、ピエトロ・マキシモフことクイック・シルバー(エヴァン・ピーターズ)だろう。ジョン・F・ケネディ大統領暗殺容疑により、ペンタゴンに幽閉されたエリックだが、このことがエリックの復讐心を踏襲するレイヴンの暴走に繋がってしまう。ウルヴァリンとチャールズはエリック脱走計画に際し、超音速での移動能力を持つクイック・シルバーに白羽の矢を立てる。ブライアン・シンガーお得意の湿り気のある水辺演出は、直接関係ないはずのペンタゴン内の調理場をスプリンクラーで水浸しにするという荒技で魅せる。スロー・モーションの中鳴り響くJim Croceの『Time in a bottle』、スロー・モーション世界を自由に闊歩するクイック・シルバーの格好良さはシリーズ屈指を誇る。ブライアン・シンガーの夜景への尋常ならざる執着が露わになるクライマックス・シーン。ミスティークが倒れる噴水前広場、ウルヴァリンがエリックに放り込まれる川底、注射やタイムスリップした先のラバライト、そうした数々の水にまつわる道具立てにより、自らの作品を強固なものにしていくブライアン・シンガーの作家性。また若き日のウィリアム・ストライカー(ジョシュ・ヘルマン)とボリバー・トラスクとの出会いが、『X-MEN』1,2に繋がる強引な展開は、ブライアン・シンガーなりの歴史修正主義を含有している。

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