【第347回】『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』(スティーヴン・スピルバーグ/2011)

 相棒のスノーウィと世界中を駆け巡り、難事件に挑む少年レポーター、タンタン。ある日彼は、蚤の市で美しい船の模型を手に入れる。それは海賊レッド・ラッカムに襲撃され、海上で忽然と消えたといわれる伝説の軍艦ユニコーン号。ところがその日以来、なぜか正体不明の男たちに追いかけられることに。やがて模型のマストに暗号が記された羊皮紙の巻物を発見したタンタンだったが、ほどなく謎の男サッカリンに拉致され、貨物船の船室に閉じ込められてしまう。その後スノーウィに助けられたタンタンは、ユニコーン号最後の船長アドック卿の子孫、ハドック船長と出会う。2人は、サッカリンの執拗な追跡をかわしながら、ユニコーン号の謎を解き明かすべく奔走するのだったが…。

スピルバーグ初のモーションキャプチャ映画にして、前作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』とも連なる冒険モノ。70年代からスピルバーグの映画を順番に観ていた者にとっては、彼のフィルモグラフィの変化はある程度許容出来る。作り手も年を取るなら、観客も同時に年を取っていくのは自然なことである。特に『シンドラーのリスト』以降、徐々に陰惨さを極めることになるスピルバーグの作風の変化は、撮影監督であるヤヌス・カミンスキーに負うところが大きい。だが80年代半ばまでのスピルバーグに対する世間の評価というのは、もれなくヒューマニズムとファンタジーの作家だというのが大方の見方であった。彼のフィルモグラフィを俯瞰で眺めた時、必ず議題に上るのはいったいどこから彼の作風が『E.T.』のようなファンタジーではなくなったのかということである。80年代以降、彼が製作総指揮に回った作品は10本20本では下らない。『1941』で大コケした後、スピルバーグの監督と製作総指揮を巡る線引きは実に一貫している。要は自分にしか撮れない映画は自分で撮り、他の人に任せるべき素材は任せるのである。

それでも『ジュラシック・パーク』の続編である『ロスト・ワールド』やインディ・ジョーンズ・シリーズの4作品など不可解な部分が多いのも事実である。個人的には『ロスト・ワールド』はスピルバーグがホークスの文脈を現代に蘇らせるために、前作における『赤ちゃん教育』から『ハタリ!』へと移行する彼が定義する映画史への目配せが多分に感じられるし、インディ・ジョーンズ・シリーズでは盟友ジョージ・ルーカスのような親子関係にまつわる因果を描きながら、スター・ウォーズ新3部作と同じ轍を踏まない強固な意志は感じるものの、もはやスピルバーグが撮るべき素材ではないことは明らかだろう。だが現在の陰惨な物語のスピルバーグ作品を好まない者や子供達にとっては、『シンドラーのリスト』以降のスピルバーグ映画が難解過ぎるのもまた事実であり、『プライベート・ライアン』や『アミスタッド』を子供に見せるのはかなり勇気が要る。

劇中の主人公タンタンの言葉にもあったように、スピルバーグという人物は根はロマンチストでありながらそれをひた隠しにした現実主義者であり、タンタンの生き写しのような人物である。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』では両親の面影に囚われた青年が平凡で幸せな家族を偽装しようとするが、愛する人の父親に嘘(欺瞞)を暴かれ一瞬狼狽する。そこに思いがけない言葉が返って来る「君はロマンチストなんだね」と。今作におけるタンタンとハドック船長の関係性はこれまでのスピルバーグ作品同様に、大人びた子供と子供じみた大人の対比である。スピルバーグがなぜタンタンに強く心惹かれ、映画化に至ったのか?それはタンタンという人物造形に大人びた冷静沈着な子供像を見出したからであろう。様々な難事件を解決し、一向に頼りにならない瓜二つのインターポールの刑事をリードしながら、財宝のありかを執念深く探す様子が彼の琴線に触れたのである。ハドック船長に関しても当初はどうしようもないアル中で酒浸りな人物として描かれるが、ある段階に差し掛かると、タンタンの気持ちを鼓舞し、彼に教育を施すことになる。

モーションキャプチャに関しても、前作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』のように大抵のアクションがCGを用いて処理されるのであれば、最初からモーションキャプチャでも大差ない。アニメと実写の差とは登場人物を生身の人間が演じるか、人物の動きを模したデジタル変換された技術が演じるかであり、アクションを構成するスピルバーグ側の手腕にはそこまで変化はないのである。あるとすれば製作費の都合だろうか?実際に今作では陸・海・空を舞台に有機的に結びつき、その配置・順番含め素晴らしい活劇の流れが披露される。3D演出に関しては横の動きよりも縦の動きに重点が置かれ、一貫して高低差を感じるアクションが迫力十分である。これは弟子のゼメキスの影響が色濃い。特に素晴らしかったのはヘリコプターでの悪天候通過の場面とジープでの追走劇だろう。車に轢かれそうになる場面など、実際に実写では映像化不能な高処理なショットを連結させることに成功している。クライマックスでのクレーン同士の争いも申し分ない。船上シーンも思えば『フック』の頃のような無邪気さを取り戻しながら、より高低差を意識したロー・アングルとハイ・アングルの配置が素晴らしい。何よりも一旦ヤヌス・カミンスキーと離れ、自らの思いを具現化した砂漠の彷徨場面とラスト・シーンの長回しの欲望は圧巻である。

#スティーヴンスピルバーグ #タンタンの冒険 #ユニコーン号の秘密

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?