【第672回】『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(ジョージ・ルーカス/1977)

 記念すべきシリーズ1作目にして、全9部のトリロジーの4本目。公開は新3部作よりも前になったが、ジョージ・ルーカスは今作を撮った時から既に9本の壮大な構想を練っていたという。新3部作では、クワイやオビ=ワンに見出された若きアナキンが、ジェダイ・マスターになるという壮大な予言から始まったが、最後の最後に暗黒面に落ち、ジェダイは皆殺しにされ、オビ=ワンとマスター・ヨーダはしばし地下へと潜る。『シスの復讐』において、アナキンの妻であるアミダラは双子を身籠り、共和国崩壊の最中に生んだ子供が、この旧3部作の主人公となる。『ファントム・メナス』が若き日のアナキンの成長譚だとしたら、今作は若きルークの成長譚そのものである。セリ市でロボットたちを買った若い農夫ルーク(マーク・ハミル)は、偶然R2-D2の映像伝達回路に収められたレーア姫の救いを求めるメッセージを発見し、心を動かされる。他に救助の手を求めるべくルークの許を去ったR2-D2を追ったC-3POとルークは、砂漠の蛮族タスケン・レイダーズに襲われたところをベン・ケノービ(アレックス・ギネス)と名のる老人に助けられる。彼こそ、共和国のジェダィ騎士団の生き残りで、レーア姫がメッセージの中で助けを求めた勇士オビ=ワンだった。

 叙事詩の如き壮大な英雄物語では、しばしば歴史は繰り返される。前作『シスの復讐』において、ラストにアミダラが生んだ2人の子供は、互いを知らないまま別々に育てられるが、何の因果か奇跡のような出会いに導かれていく。この時点でルークも我々観客も、その血族の因果など知る由も無いし、当初はオビ=ワンさえもルークをジェダイの使徒にしようとは考えていなかったはずである。最後に「MAY THE FORCE BE WITH YOU」という言葉を残し、別れたかつての教え子と最後に一戦を交えたきり、オビ=ワンは世捨て人としての生活を送っている。ルークとその両親の彼は変人だからという言葉にも明らかなように、捲土重来のチャンスを伺っていた男にまたとないチャンスがやって来るのである。『ファントム・メナス』におけるアナキンは、奴隷として実の母親と共にこき使われていたが、今作では両親不在のルークは親代わりであるアナキンの母親の親族に引き取られている。タトゥーインの街では地道に農業をやるしか生計を立てる道はなく、ルークもその状況に不満があるにせよ、親代わりの両親に逆らうつもりもない。そんな平安の日々を帝国軍の攻撃がぶち壊す。この場面は明らかにジョン・フォードの『捜索者』へのオマージュ的場面である。

 旧3部作でルークの仲間となるのはオビ=ワンとC-3POとR2-D2だけではない。宇宙船調達のため、タトゥーイン惑星の宇宙空港のある街モス・イーズリーで密輸船長ハン・ソロ(ハリソン・フォード)とその右腕チューバッカ(ピーター・メイヒュー)に出会う。クライマックスにはオビ=ワンとダース・ベイダーと成り果てたアナキン・スカイウォーカーとの因縁の再会が待ち構えている。ダース・ベイダーはかつてジェダイの騎士時代の名残りで、フォースを持つ男がいま自分の元へ急接近していることを感じ取るのである。髪も白髪になり、すっかり老いぼれたオビ=ワンは無謀にも、たった一人でダースベイダー討伐へと向かう。ストーム・トルーパーへの変装のアイデアがまさに牧歌的で70年代そのもだと言える。マスクを被れば敵か味方かわからないという安直なオチを用いながら、ルークたちはしたたかに振る舞う。途中、焼却炉に投げ込まれた絶体絶命の場面も、VFXに頼ることが出来なかった70年代の方法論であろう。タコの足に絡まれたルークが、何度も水に引っ張られる場面のSFとは思えない演出がすこぶる良い。結局、宇宙船を降りれば、人間と人間とのアナログな活劇でしかないということを逆手に取り、ジョージ・ルーカスは素晴らしいアイデアで物語を押し進めるのである。

『スター・ウォーズ』シリーズにかつてあって、今は失われたものがあるとしたら、この人物の動きのアナログな活劇的魅力に他ならない。ストーム・トルーパーも人間も、宇宙船を降りればただの人間同士の戦いに終始する。あくまで「特撮」と「VFX」は別物であり、水と油だということを声高に叫ぶ今作のSFとしての魅力は永遠に色褪せることはない。砂漠の上を2台のロボットが歩くということが、インターネットもない時代の僕らにとってどれだけ衝撃的だったかは、当時を体験していない世代にもきっと想像出来る。クライマックスのまったく空間把握の出来ていないSF描写も、この時代の手探りな状況の証明となる。子供心を魅了した永遠に色褪せない不滅の名作である。

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