【第326回】『トワイライトゾーン/超次元の体験』(スティーヴン・スピルバーグ/1983)

 ジョン・ランディス、スティーヴン・スピルバーグ、ジョー・ダンテ、ジョージ・ミラーという当時の4人の若手監督を起用した『トワイライト・ゾーン』の映画版。『トワイライト・ゾーン』はアメリカで1959年〜1964年まで放映された人気SFドラマであり、スピルバーグやルーカス等が幼少時代に強い影響を受けたことでも知られている。ジョージ・ミラーは『マッド・マックス』シリーズで未だに根強い支持を集めるが、ジョン・ランディスは『ブルース・ブラザーズ』、マイケル・ジャクソンのM.V.で一躍有名になった監督である。ジョー・ダンテは『ピラニア』や『ハウリング』等の低予算ホラーを製作し、この翌年には『グレムリン』を撮る。当時の監督の序列ではスピルバーグだけが飛び抜けていたものの、それ以外の三者も80年代のアメリカを代表する名だたる監督ばかりだった。

スピルバーグが演出した第2話である『真夜中の遊戯』は老人ホーム「太陽の谷」を舞台とする。老人たちはみな元気だが、未来への希望や夢のない生活を送っている。そこに新しく入居したブルーム老人(スキャットマン・クローザース)が、ぴかぴかと光る銀色の缶を取り出し、「皆で夜中に缶蹴りをしたら、忘れていた喜びを取り戻せるかもしれない」と他の老人たちを誘う。そして真夜中、ブルームに起こされた老人たちは、規則を破って夜の庭で缶蹴り遊びを始めた。他の3篇は主人公の身に起きる恐怖体験を描く中、スピルバーグの書いた一篇だけは愛とファンタジーに溢れている。実の息子に邪険にされ、今はただ黙って死を待つしかない老人たちの悲哀溢れる老人ホームに、新しく入った老人が超能力により波風を起こす。

彼らは現在の自分たちの姿を嘆き、ただただ死を待つだけだったが、いざ若返ってしまうとやるせない思いでいっぱいになる。ある者はもう一度学校に行きたくないと言い、またある者は自分の指輪がなくなったことにパニックを起こす。彼らは若返ってみて初めて自分たちの歩いてきた道程の大切さに気付くのである。夜中、全員が急に若返る場面は、この後のロバート・ゼメキスの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のタイムスリップを予見したかのようである。ジョン・ランディス、ジョー・ダンテ、ジョージ・ミラーがそれぞれにおどろおどろしい展開の物語を用意する中、ただ一人ファンタジーを貫いたスピルバーグの姿勢が今となっては凄いと再確認させられる。ある老人だけは年老いたくないと時間の流れに逆境する道を選び、窓の外へと飛び立つ。ここでもスピルバーグにおける夜の「窓」が登場するのである。

他のエピソードではやはり第一話の『偏見の恐怖』が印象深い。別の同僚に昇進を奪われた主人公が酒場でユダヤ人や黒人、黄色人種をバカにするうちに、外に出ると時空をワープしてしまい、ナチスドイツやKKKやベトナム戦争の現場にタイムスリップし、敵軍に撃たれ、最後には強制連行されるという物語なのだが、その物語以上に主人公を演じたヴィック・モローの不慮の事故死が当時日本でも盛んに報道された。クライマックスであるベトナム戦争の場面をロサンゼルス北80kmの砂漠にて撮影中、頭上から模擬爆弾の爆風を受けたヘリコプターが落下。共演していたベトナム出身の2人の子供と共にローターに巻き込まれて死亡するという痛ましい事故だった。この役はユダヤ人に異常な偏見を持つアメリカ人の役だったが、彼はその名の通り、両親はロシア系ユダヤ人だったというのが何とも皮肉な事実である。監督だったジョン・ランディスはこの後過失を問われ、以降この事故のトラウマから極度のスランプに陥ったという。

第4話もジョン・リスゴーが窓の外を覗くと、ニュークスのような奇怪な格好をした男がエンジンを食べているという設定がいかにもジョージ・ミラーらしい。CCRの『ミッドナイトスペシャル』が懐かしいし、何よりアルバート・ブルックスとダン・エイクロイドの不毛なやりとりが微笑ましい。とはいえ『トワイライト・ゾーン』の本気のマニアかそれぞれの監督の熱心なファン以外が情熱を持ってみなければならないかというとそんなことはない。今観ると4話ともに凡庸な出来だと言えるものの、各監督のファンは観ておいて損はない。

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