【第620回】『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』(山口雅俊/2016)

 カネと欲望に翻弄される人々の悲喜交々を描いた人気コミック『闇金ウシジマくん』の劇場版シリーズのフィナーレとなる通算4作目。繋がったもみ上げ、綺麗に切り揃えた顎髭、大きなフレームのメガネ、全身黒ずくめのラフな格好、食べ物にガッつき、盟友である戌亥と視線を合わせることがなく、瞬き一つせず、一切の喜怒哀楽を見せることのない特異な主人公・丑嶋馨(山田孝之)の12年前の過去に遡ることで、今作はカネに非情な男ウシジマがなぜ誕生したのかを克明に描写する。竹本(永山絢斗)はウシジマの過去への媒介者として登場し、貧困ビジネスに落とされたところで、別の悪友との因果をも浮き彫りにする。それと共に、これまでの6年間の歴史の中で語られてこなかったNo.2の柄崎(やべきょうすけ)との友情も明らかにしながら、Part2から長らく続くライノーローンの犀原茜(高橋メアリージュン)や村井(マキタスポーツ)との起点さえも明らかにし、極めて明瞭な相関関係を見せる。その意味でファイナルに相応しい結び目と見事な伏線の回収だが、肝心の脚本そのものの出来は決して良くない。一番致命的なのは、竹本がなぜ貧困に陥ってしまったのかを一切描写していないことに尽きる。竹本がウシジマと鰐戸3兄弟を結び付ける媒介者として必要であれば、せめて前作の演(本郷奏多)やPart2の神咲麗(窪田正孝)くらいの最低限の背景描写は必要だろう。なぜ彼は貧しくならざるを得なかったかの丁寧な描写が足りない。

もう一つ致命的な欠陥は同級生役を演じた山田孝之とやべきょうすけ、永山絢斗の実年齢と役柄年齢との見事な乖離っぷりに尽きる。回想シーンはそれぞれ現在の彼らに似た子役が演じているのだが、江口悠貴の12年後がやべきょうすけというのは、近年のアンチエイジング化が進む日本映画においても、流石に有り得ないだろう。やべきょうすけは73年生まれの43歳、永山絢斗は89年生まれの27歳であり、16歳の開きがある。『闇金ウシジマくん』シリーズが秀逸だったのは、原作者の真鍋昌平が現代日本の底辺を鋭くえぐり出したからに他ならない。監督の山口雅俊がかつて手掛けたドラマ版『ナニワ金融道』シリーズでは、従業員に給料が払えなくなった町工場のオーナーや、父親の借金を背負わされた薄幸のヒロインが次々に登場したが、世紀を跨いだ現在ではその借金理由は大きく様変わりしている。彼らは大した大義名分もなく、見栄やプライドで簡単にヤミ金にすがるのが特徴的である。2007年1月20日より改正貸金業法により、ヤミ金の刑事罰は従来の「5年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金又はその併科」から「10年以下の懲役又は3000万円以下の罰金又はその併科」に引き上げられ、恐喝の罪と同等以上となった。いわゆるグレーゾーン金利の撤廃により、一般に利息制限法の基準を超える利率で支払われた金額は、不当利得の返還、いわゆる過払い請求として10年以内ならば差し戻しが出来るようになった。90年代から2000年代にかけて散々流れた消費者金融のアコムやプロミスや武富士のCMや列車の中吊り広告が、アディーレやアヴァンス法務事務所のCMに取って代わっているのを実感している人も多いに違いない。彼らは本来ならば弁護士の本質とも言える企業顧問や凶悪事件などは眼中になく、フォーマットに則った過払い請求だけで巨万の富を得る。

こうしたグレーゾーン金利の撤廃こそが、不要とも言える弁護士群をひたすら肥え太らせる。都陰法律事務所の都陰亮介の描写はまさにこの法律の引き締めで一夜にして富を得た成金弁護士として描写される。そもそも都陰亮介が何故今井万里子のパーティに参加したのかは今作の脚本ではさっぱりわからないが、八嶋が演じた都陰のような人物は法律改正を境に、一夜にして成り上がる。誠愛の家「ラブ・ハウス」のおどろおどろしい展開と心底厭な描写の数々は、山口雅俊の出自ともなった福本伸行の『賭博黙示録カイジ』シリーズをも彷彿とさせる。悪徳弁護士である都陰亮介とヤミ金業者ウシジマのアンビバレントな相克関係は秀逸だが、問題は12年前の因果を運んで来る鰐戸一(安藤政信)の描写だろう。『GONIN サーガ』の式根、『セーラー服と機関銃 -卒業-』の安井と近年振り切れた悪人ぶりを演じて来た安藤政信の3度目の狂人ぶりは、決して安藤自身に罪はないが流石に食傷気味なのは否めない。だが熱心な邦画ファンならば、安藤政信とモロ師岡と当時の矢部享祐(現在のやべきょうすけ)の『キッズ・リターン』同窓会のような勢揃いに、目頭が熱くならないはずはない。すかり堕落したハヤシ(モロ師岡)の甘い誘いに将来有望だったタカギシンジ(安藤政信)は簡単に騙されてしまったが、今作でもモロ師岡扮するつくしの間室長の榊原は、竹本をいとも簡単に堕落へと誘う。厭な映画としての体裁を保ったまま、フィルムは鬱々とした雰囲気を漂わせ、これまで追う側だった「カウカウファイナンス」の面々は12年前の私怨により追われる側へ形を変える。『家族ゲーム』のような横並びでのお好み焼きシーンや、クライマックスの余韻は確かに素晴らしいが、途中からヤミ金融のフォーマットが剥がれ落ち、『クローズZERO』と変わらないタイマン・バトルが始まる。ウシジマが時に命よりも大事にして来たカネよりも、情緒を生かす結末には、はっきりと違和感が拭えない。

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