【第346回】『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(スティーヴン・スピルバーグ/2008)
1957年ネバダ州。ソ連軍の女諜報部員スパルコ(ケイト・ブランシェット)に拉致されて、米軍基地の襲撃にひと役かわされたインディ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)と相棒マック(レイ・ウィンストン)は、なんとか逃走することに成功する。スパルコが狙っているのは、宇宙の神秘の力を解き明かす秘宝として言い伝えられているクリスタル・スカルだった。パート3で一旦は完結したものの、20年ぶりに唐突に現れたシリーズのパート4。冒頭の意表を突くカー・チェイスに始まり、スピルバーグ×カミンスキーの署名がどこにもないことに驚かされる。ルーカスの専売特許を奪うかのようなバイク・レースに始まり、カミンスキーらしからぬハイ・アングルのカメラが異彩を放つ。
物語は一応の目論見として、89年の『最後の聖戦』のラスト・シーンを踏襲する。政府の極秘案件として倉庫の山の中に埋もれた財宝を狙い、またしても女が現れる。『シンドラーのリスト』でユダヤ人の闇を描き切ったからか、1957年という時代設定上、彼女はナチスドイツの要人ではなく、スターリンの秘蔵っ子と称される。アークの力に心を奪われナチスドイツは崩壊し、インディが持ち帰ったアークは最高機密として核兵器開発に使われているというスピルバーグの捻れたユーモアが根底にある今作においては、安定した職を奪われてアメリカを追われ、仕方なくイギリスへと渡るインディの背景は明らかに「赤狩り」を連想させもする。しかしながら政府所有の倉庫から逃げたインディが核爆弾で数kmに渡り被曝する中、冷蔵庫に隠れたインディだけが被曝を免れる前半の重要な場面の描写は我々日本人にとってはまったく笑えない。親日家として有名なスピルバーグだが、『1941』においても、『太陽の帝国』においても今作においても、この人の日本の描き方はあまりにも冷淡で笑えない。
教授の職を解かれ、やむなくイギリスへ向かおうとした彼が知り合ったのは、バイクに乗る若者のマット(シャイア・ラブーフ)だった。彼は、母とインディの友人であるオクスリー教授(ジョン・ハート)を救うため、インディを探していたのだ。黒光りする汽車の中で将来を悲観し項垂れるインディの横を、活気溢れる若者がバイクで並走しながらインディを探す場面は世代交代を予感させる。思えばスピルバーグは今作でJ・J・エイブラムスよりも一足早く、ハリソン・フォードによる世代交代の儀式を済ませていたのだと言えやしないか。リーゼントでカッコ良く決めた若者は、国家権力を巻くほどの運転テクニックを見せる。彼らは互いに誰なのかあまり理解せぬまま、一路南米のペルーへと向かうのである。
続編の中に何が映っているのかを見ることは、そのままスピルバーグの好みにも呼応する。彼が絶体絶命の場面で描きたかったのは、パート1のヒロインでその後一度も姿を現すことがなかった元・恋人のマリオン(カレン・アレン)との再会である。カレン・アレンとの喧嘩別れによる降板から、物語の修正を迫られたスピルバーグがパート2の出来に満足していなかったのは容易に想像出来る。今作では製作総指揮をジョージ・ルーカスが務めたことからも明らかなように、単なる冒険ものでありながら、そこに親と子の運命としか言いようがない因果が大河ドラマのように一つにつながる瞬間が訪れる。それこそがジョージ・ルーカスが最も描きたかったアイデアに他ならない。インディはパート3におけるショーン・コネリーのように、精一杯の親愛の情を込めてマットを「jr.」と呼ぶのである。またインディとマリオンの再会のキスをマットが邪魔をする。この3人の微妙な関係性が物語を引っ張っていく。
前半・中盤とスピルバーグ×カミンスキーの署名がどこにも見られないと書いたが、終盤になって初めてスピルバーグの署名が登場する。それはあの宇宙と地球の間に出来た時空の狭間の幻の宮殿の到来である。13体のクリスタルの最後の一つにインディが大切に持ってきた頭が合致する時、彼らの頭上を円盤型の石がかすめる。その様子を大人たちは下からじっと眺めるのである。この描写にかつての『未知との遭遇』の神秘主義を思い描いた人は多い筈である。思えば1作目でユダヤ教、2作目で密教・邪教の類を、3作目でキリスト教を物語のベースに巧妙に忍ばせたスピルバーグにとって、今作における神秘主義への傾倒はある種の必然であるように見える。ただ20世紀から21世紀へと時代が移り変わる中、今作においてもVFXの導入が皮肉なことにシリーズの足を引っ張っている。地面を大量に這う蟻の描写や崖の上でのカー・チェイスなど、VFXを駆使した至れり尽くせりの絵作りが、かえってスピルバーグ×カミンスキー・コンビの端正な絵作りを阻害しているのが残念でならない。
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