【第591回】『闇金ウシジマくん Part3』(山口雅俊/2016)

 東京のボロ・アパートに暮らす1人暮らしのフリーター沢村真司(本郷奏多)は、今日も日雇いの仕事で糊口を凌いでいた。遊び・モノ・カネ・女と何かと誘惑の多い都会暮らしでは、彼の居場所などどこにもない。街では読者モデルのりな(白石麻衣)がカメラマンの前でポーズを取っている。一生こんな女とは縁がないだろうなと不貞腐れる沢村の眼前に、1枚のビルボード広告が目に止まる。派手派手しいCGでキャッチーに仕立てられた映像と「秒速で1億を稼ぐ男」のフレーズ、スーツ姿で太めの体型、明らかに胡散臭い男は天生翔(浜野謙太)と呼ばれている。彼は天生塾塾長として、秒速で1億を稼ぐノウハウを、情報商材として塾生に提供している。建設現場で出会った坂岸(石橋保)に呼ばれ、無理やり連れてこられたスナックの帰り道、黒ずくめの3人組は暗闇から突然現れる。彼らこそは「1日3割」「10日で5割」というイリーガルな金利でカネを貸し付けるアウトロー集団「カウカウファイナンス」社長のウシジマ(山田孝之)とNo.2の柄崎(やべきょうすけ)、ホスト上がりのイケメン社員高田(崎本大海)である。坂岸を取り立て、5000円足りないとわかったウシジマは沢村に支払わせようとするが、スナックの支払いで使い果たし、持ち合わせがない。そう伝えた沢村に対し、ウシジマは坂岸を早速拉致る。セミナー参加無料の広告に絆された沢村は、天生塾のセミナーを受講してしまう。日本が中心となった世界地図とヨーロッパが中心の世界地図を見せながら、天生は考え方次第で世界は変わるのだと嘯く。洗脳された受講生達の拍手喝采。最初は受講するだけだったはずの沢村はペテン師の罠にいとも簡単に落ちて行く。

カネと欲望に翻弄される人々の悲喜交々を描いた人気コミック『闇金ウシジマくん』の劇場版シリーズ第3弾。「カウカウファイナンス」のウシジマ以下、柄崎、高田の表のトライアングルと、地下で暗躍する戌亥(綾野剛)の布陣はそのままに、ドラマ・シリーズSEASON3で女子社員を演じたエリカ(久松郁美)から新人受付嬢モネ(最上もが)にバトン・タッチされ、新たな「カウカウ・ファイナンス」の面々が活躍する。有り得ないイリーガルな高金利でカネを貸す闇金業者「カウカウファイナンス」には今日も後がない債務者たちが目先のカネを求めてやって来る。今作でもアンジャッシュの児嶋一哉やしんこch.(前野朋哉)など次々に債務者たちが出て来るが、物語の本線では、天生塾にカネを注ぎ込むことになる沢村と、大手企業のサラリーマンである加茂守(藤森慎吾)を文字通りカモにする。「秒速で1億を稼ぐ男」の異名を持つ天生翔の元ネタは明らかに与沢翼に違いない。無名のモデルや女優たちを囲うパーティには手配師・穂苅(川野直輝)が暗躍し、天生と裏のコネクションを作る。キワドイ格好をさせられる子がいる一方で、大半の子はただその場にいるだけで、1日2万円ものタクシー代を手にすることが出来る。ただし天生にブスだと言われた女はすぐに退場させられる。IT業界華やかなりし2000年代には、このようなパーティが夜な夜な繰り広げられ、派手に万札が飛び交った。その一方で天生は、1枚100万円もするDVDや、1冊30万円もする書籍を「情報商材」の名目で売りつける。これら稼ぎ系と呼ばれるもののうち、95%がペテンやインチキに溢れている。ITバブルの時期から、怪しい情報商材や自己啓発本が多発し、消費庁には返金の連絡が相次いでいる。

いわゆるネズミ講の手口は、被害者の数もネズミ算式に膨れ上がる。ピラミッドの頂点にいる天生翔やNo.2である清栄真実(神、the 2nd)にはガッポリと利益が入るが、下々の人間には配当が配られることは永遠にない。90年代のオウム真理教事件から「マインド・コントロール」という言葉は流行したが、その頃から日本は急速にカルト化し、右傾化していった。その過程でITバブルの負の遺産として「情報商材ビジネス」が槍玉に挙がる。一時は甘い話に目が眩んだ人たちがいったい何人騙されたのだろうか?古くは80年代の「豊田商事事件」が思い出されるが、悪人たちは人の弱みに簡単につけ込んでくる。これまでのシリーズ同様に、監督である山口雅俊は「カウカウファイナンス」の仕事を決して肯定していない。このような違法な取立ては明らかにイリーガルだが、カネに目が眩んだ人間たちは、借金のループからそう簡単には抜け出せない。遊び・モノ・カネ・女を巡る人間たちの欲望が駆動する時にしか、闇金の必要性は出て来ない。世の中のサービス業のほとんどが積極的なセールス・プロモーションなくして成功しないのに対し、彼らの仕事は落とし穴にハマる人間たちをひたすら待つより他ない。イベントサークル代表、FX長者、美人局、弁護士、暴走族、ホスト、売春婦、AV女優などこれまでに数多くの職業の人々が「カウカウファイナンス」に駆け込み、違法な取り立ての餌食になったが、それぞれに悲喜交々な人生模様があった。だが劇場版も3本目、ドラマ1クールを3本撮った段階に来ると、さすがに職業で新鮮味は出し難い。物語そのものも、大島優子と林遣都の好演があった1、菅田将暉、窪田正孝、柳楽優弥、門脇麦ら今をときめく若手俳優たちの共演だった2に比べれば、いささか寂しいのは否めない。それ以上に主人公であるウシジマの台詞や行動が極端に減ったのは、来たるべき『ファイナル』への序章に違いないとポジティブに据えたい。

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