【第324回】『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(スティーヴン・スピルバーグ/1981)

 舞台は1936年、プリンストン大学で教鞭を執る高名な考古学者インディアナ・ジョーンズ教授(ハリソン・フォード)には、世界中の宝物を探し集めるというトレジャーハンターとしての顔があった。第2次世界大戦直前の混乱期。勢力を拡大する一方のナチスドイツのヒトラーは、幻のお宝となる伝説のアーク「聖櫃」の行方を執拗に追っていた。そのことを知ったアメリカ側は、ヒトラーに渡るのを阻止すべくあらゆる手段を用いて妨害しようとしている。その困難な任務を受けることになったのはインディで、アメリカ政府からアーク発掘の要請を受け早速エジプトに渡った。

インディ・ジョーンズ・シリーズの記念すべき1作目にして、監督スピルバーグと製作総指揮ルーカスのダブル・クレジットを冠した記念すべき作品。スピルバーグとジョージ・ルーカスの出会いは8mm製作時代の1960年代末にまで遡る。ルーカスの才能に嫉妬していたスピルバーグは『未知との遭遇』の撮影を終え、休暇のためにハワイを訪れるとそこにはジョージ・ルーカスの姿があった。彼は『スター・ウォーズ』の興行的失敗を恐れ、アメリカから遠く離れたハワイに逃げて、全ての情報をシャットアウトしていたという。そんな彼に『スター・ウォーズ』大ヒットの知らせを届けたのがスピルバーグであった。ハワイでリラックスした空気の元で映画について話し合ったルーカスはスピルバーグに、一つの構想を持ち込む。それが今シリーズのきっかけとなった原案である。『スター・ウォーズ』1作目のモンスター・ヒットにより、監督業を一時休業したルーカスは、『1941』を撮ったばかりのスピルバーグにシリーズ第1作の監督をお願いする。『帝国の逆襲』の脚本を最後に急死したリイ・ブラケットを失い、途方に暮れる2人の助けになる人物も現れる。それが『帝国の逆襲』でリイのアシスタントを務めたローレンス・カスダンである。

インディはアブナーの日記を手掛かりとして、ネパールの村へと向かう。アブナーの娘であり、かつてインディの恋人でもあったマリオン・レイヴンウッド(カレン・アレン)が営む酒場を訪れるが、既にアブナーは死亡していた。マリオンは日を改めて来るようにと言ってインディを追い返すが、直後にインディを尾行していたゲシュタポのエージェントアーノルド・エルンスト・トート(ロナルド・レイシー)らが酒場に現れ、マリオンに杖飾りを渡すように強要する。両親がユダヤ人であるスピルバーグは、巧妙にナチスの非人道的行いを告発する。常に黒いレインコート姿で薄笑いを浮かべているこの男は、生意気な女から力づくで杖飾りを強奪しようとする。その姿は冷酷非道であり、容赦がない。間一髪のところでインディが救出に入る。炎に包まれた酒場での銃撃戦はまるで西部劇である。至近距離からの撃ち合い、自分が撃たれたと思ったら男の裏に女が隠れているなど、射撃のバリエーションには事欠かない。やがて手柄をせしめたかに見えたトートだったが、その代償として手のひらに大きなヤケドを負うことになる。

カイロに到着したインディは、友人の発掘王サラー(ジョン・リス=デイヴィス)を頼りにタニス発掘の情報を集める。しかし、ディートリッヒの部下に襲撃を受け、マリオンがトラックの爆発に巻き込まれてしまう。その上、既にドイツ軍が杖飾りを入手していることを知るが、実はディートリッヒらに合流したトートの火傷痕から複製されたのだが、杖飾りは両面そろって初めて正しい発掘場所を示す為、ドイツ軍は未だに聖櫃が隠された「魂の井戸」の特定には至っていない。ここでの異国の歓楽街の描写はまるで『スター・ウォーズ』のタトゥイーンの描写のようである。実際に撮影は『スター・ウォーズ』と同じチュニジアで行われたらしい。ルーカスは短期間での撮影のため、土地勘のある場所を優先したのである。人間と人間の追いかけっこの中に猿が仲介に入るのもどことなく『スター・ウォーズ』のドロイドの介入を彷彿とさせる。途中複数の樽を使ったトリックやチュニジアの町並みを上手く利用した活劇はスピルバーグのセンスの良さを感じさせる。後ろに誰かがいるというたったそれだけのことが、スピルバーグにとっては真に劇的な活劇の場となる。

インディとサラーがエジプト人採掘者に紛れて、タニス遺跡の発掘現場へと潜入し、本物の杖飾りを用いて「魂の井戸」の場所を突き止める中盤以降の怒涛の展開はいま観ても素晴らしい。一度は死んだかに思えたマリオンとの再会でインディは大喜びするが、その後再び捕虜として戻す頭の良さも見せる。その後のカー・チェイスならぬ馬による追跡は、ジョン・フォード『駅馬車』への実にあっけらかんとしたオマージュに他ならない。馬で追走し追いついたインディはトラックの幌へよじ登り、やがて運転席に乗った男を蹴散らす。その後お宝を奪還したインディの逃亡は古き良き西部劇の変奏となる。

クライマックスは『未知との遭遇』同様に、旧約聖書から伝わる十戒のイメージが全ての活劇を打ち消すかのように現れるが、『新たなる希望』と『帝国の逆襲』の延長線上で再び結集したインダストリアル・ライト&マジックの特撮が、『未知との遭遇』のダグラス・トランブルとは一味違うテイストを醸し出している。いま観ると所詮この程度かと思うかもしれないが、この当時はディック・スミスの特撮並みにグロい衝撃的な人間の消滅シーンだった。またインディの蛇嫌いの挿話やモテ男である主人公のじゃじゃ馬ならしの挿話など、脚本も実によく練られている。たかだか目を閉じていただけで災いから逃げる主人公たちの姿にはやや首を傾げたが 笑、この目をつぶることの大切さは後にスピルバーグの作品で顕在化することになる。80年代の冒険活劇のあるべき姿を提示した歴史的傑作である。それにしても途中毒を飲んで死んだ猿の哀れが随分と容赦ない。

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