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「日本の議会にはパリテが必要です」 男女同数の神奈川県大磯町議会を取材、出版した和田靜香さんに聞く

 「政治」分野のジェンダーギャップ指数が146カ国中138位の日本にも、男女同数議会があった!
 「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。」などの著書があるフリーライターの和田靜香さんの新刊のテーマは、パリテ(男女同数)議会。町議14人のうち7人が女性という状態が20年以上続いている神奈川県大磯町議会に約1年間通い、パリテが地方自治に与える影響について、考えたという。10月1日に出版された著書「50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと」(左右社)を読み、和田さんにパリテについて聞いた。

和田さんの新著「50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと」

男女同数が20年続く大磯町議会


――女性の政治参加というと、クオータ制(一定割合の議席を女性に割り当てる制度)が浮かびます。そこを超えてパリテ(男女同数)に関心を持ったのはなぜですか?

和田さん コロナ禍でバイトを首になり、途方に暮れていた時、衆院議員の小川淳也さんに、「どうして社会はこうなってるんだろう」と疑問をぶつけ、本を作りました。そのときに、女性に非正規雇用が多いこと、女性は年金が低く、住宅を借りにくいことなどを私から話したんだけど、「どうして社会はこうなんだ?」という女性が女性ゆえに背負わされる疑問が、男性議員である小川さんにははっきりと見えていない気がした。やはり女性の議員が増えて私たちに寄り添い、共感してほしい。女性がひとりで安心して暮らせる社会を築いてほしい。そのための法律を作ってほしい、と強く思った。だから女性議員が男性議員と同数かそれ以上いることが大切でしょう。本来、女性と男性は同じ権利や選択肢があってしかるべきです。そう思って調べたら、大磯町にあった。しかも20年も続いていた。

※内閣府の「市区町村女性参画状況見える化マップ」によると、和田さんが検索した当時(2020年度版)、女性議員の比率が50%を達成していた地方議会は、神奈川県大磯町と奈良県王子町の2町。2022年度版では、東京都清瀬市、兵庫県小野市、大阪府島本町、大阪府豊能町、奈良県王子町の2市3町に広がった。2023年春の統一地方選を経て、さらに千葉県白井市、兵庫県宝塚市、東京都杉並区、埼玉県三芳町、愛知県日進市、東京都武蔵野市、大阪府忠岡町、奈良県三郷町、北海道新十津川町が女性議員比率50%以上を達成した。

お茶を飲みながら政治の話


――その秘密を知りたくて、東京から大磯町に通い始め、一時は部屋を借りて住んだんですね? 大磯町はどんな町でしたか?

和田さん 女性のコミュニティが本当にすごい。戦後まもなく、海外出自の親を持つ孤児を対象にした児童養護施設「エリザベス・サンダースホーム」を開いた沢田美喜さん、国家公安委員を務めた社会学者の坂西志保さんが大磯に住んだ。今だって、地元出身の人も、移住してきた人も、女性たちには大磯でコミュニティを作っていく力があるんです。コロナ禍で働いていた旅館が廃業したら、カフェをオープンして、近隣のお店とおいしいものや雑貨を集めた市(いち)まで始めてしまうなど、大磯では一年中、誰かが何かをしている。お茶を飲みながら政治の話もできる。

ヤジやハラスメントがない


――町の人口が3万人ちょっと、議員定数が14。民主的に物事を動かすのに、ちょうどいいサイズですね。議会はどんな感じですか?

和田さん とにかく発言や議論が飛び交って、議会が長い。多くの地方議員を悩ませている新人や若い女性議員が標的になりがちなヤジやハラスメントはここにはありません。地方議会では同じ政党や政治思想を同じくする人たちが「会派」を組んでまとまり、1つの意見に集約するのが当たり前ですが、大磯町議会では会派制をとってないのも、自由闊達な議論につながっていると思います。他の自治体では若い女性が当選しても、会派にしばられて自由に物が言えないという話も聞きますから。

書店のキャンペーンで新著を手にする和田靜香さん=東京都内で(左右社提供)

目の行き届かないところを質問


――女性議員が多いことでどんなメリットを感じましたか?

和田さん 今言ったように視点が増える、多様性が広がることで、議論が深まると言えると思います。今年の選挙で世代交代するまで、大磯町議の平均年齢はやや高めだったけど、それでも女性が多いことで、多様な意見が出ていた。女性議員といっても、政策は子育て、教育、福祉ばっかりじゃない。防災、環境、文化芸術など、それぞれに専門イシューをちゃんと持っている。多様な立場の人がいると、目の行き届かないところについて質問が出やすくなると思う。そして多様性は年功序列をなくし、新しいことをやるのにも躊躇がなく議会の中継や、議案に対する個別の議員の賛否の見える化など、他の自治体では遅れがちなこともサクサク進めていけます。

議会中継、みんなが見ている


――一方で、町民の間には「女性議員が多ければいいってものじゃない」という意見もあったそうですね。

和田さん どんな議会でもみんなの願いが100%叶うことはないですよね。大磯町でも幼稚園の民営化についての話し合いは賛否半々で、延々平行線をたどりました。パリテだからすべて丸く収まってハッピーというのはあり得ない。議会ってそういうものだと思う。でも、町民と議会の距離はとても近い。町の課題について、「女性が意見を言っていい」「(意見を)言っていけば変えられる」と町民が思っている。ケーブルテレビの議会中継は、仕事や家事の合間にみんな見ていて、話題にしている。それがパリテの結果なのか、鶏が先か卵が先かわからないけど、そんな風土があります。

本当は女性が半数は必要


――大磯ではなぜパリテが実現したんでしょう? 他の自治体ではどうしたらパリテが実現できますか?

和田さん 大磯では住民運動や消費者運動の中から議員になる人が出てきた。女性を積極的に議会に送り出した「大磯消費者の会」は32人でスタートして40年間続いたそうです。結局は女性たちを中心にして町の人が集って学ぶ以外にない。杉並区も22年7月に岸本聡子さんが初の女性区長になりましたが、「私たちの手で区長をつくろう」という運動が始まったのは1962年。そこから60年かかっている。近道はないです。今始めたら次の世代で叶うかも、ぐらいの気持ちで取り組む。お金がある中高年は若い人の活動に寄付をするなど、サポートに回るのもいい。ただ、政治って変わるときは一瞬でガラッと変わることもあります。漠然と「パリテっていいよね」と思っているだけでは、絶対にパリテにはならない。国会は変化が遅いので、クオータ制を入れて行かないと女性議員は増えないかもしれません。でも、地方議会がパリテになったら、国会もならざるを得ないんじゃないかな。本当は、女性と男性が半々というだけでなく、多様なジェンダーに広がるべきですが、あえて男女比を取るなら、女性は半数必要ですよね。人口の半分を占めるのに、議会では30%が目標とか、どう考えてもおかしい。

女性が胸を張って生きられる社会に


――パリテについて考える中で、和田さんがフェミニズムを深めていくのが印象的でした。とりわけ、褒められた時に「私なんて」と感じてしまう「インポスター症候群」は、私も思い当たるところがあります。

和田さん パリテについてあれこれ本を読んでいるなかで、政治学者の三浦まりさんが「インポスター症候群」について書いているのを読みました。そこで、アッ!と気づいたんです。そしてパリテのある大磯町を訪ね歩き、町の女性たちとおしゃべりしていくうちに、女性は社会から求められる「理想的な生き方」にしばられて、自信をなくさされていることに気づいた。私の場合は「子どもも産まないでひとりで生きている」ことや、「ちゃんと就職もしないでフリーランスで、しかも仕事が中途半端でバイトばかりしてる」ことに自分でダメ出しをしていました。でも、それは思い込まされていただけだとわかると、「自分は間違っていない」と気が付ける。誰だって生きたいように生きていい。私はひとりで楽しく生きたい。「私はやれることをやってきた」と日本中の女性全員が胸を張って言える、そういう社会になってほしい。

国会議事堂を前にポーズを取る和田靜香さん=東京都内(本人提供)

女性たちよ、生き延びよう!


――本書の終わりの方で、「私はみんなの不安の代表から、不安を叫ぶみんなの声の代表になる」と宣言されています。

和田さん 「みんなの不安の代表になる」っていうと、なんか選挙に出るみたいなので。出ないですよ、私は。「書く」のが仕事ですから(笑)。こんな社会では不安だ、とただ言うだけではなく、不安をなくすために、人一倍、大きな声で叫び続けたいんです。議会に関心を持ち続けたい、そう思います。岩波ジュニア新書の「地方自治のしくみがわかる本」(村林守著)に印象的な一節があります。「(私が)どのような空間で生きているかは人生の一部であり、人生の豊かさは生きている空間の豊かさに依存するのです」。つまり、自分の住む地域をきちんとしなければ人生は豊かにならない。自分の生活や自分自身を大切にすることは地域を大切にすること。地方議会を大事にしないと生活が破壊される。地元の政治は生活に直接関わる。たとえパリテが成立しても、最初からパッとうまくいくわけじゃないと思います。首長と議会が対立して議会が荒れることもあると思う。そんなときは、無用に議会を荒らす議員を次の選挙で落とす努力をする。自分たちで候補者を立てるのもいい。関心を持ち続け、足元の議会を変えていきたい。何より、パリテを実現させるにはまず、女性が自分の声を持って発言する、生きていく自信を持つこと。それが一番大事だと、書き終えた今、実感しています。私たち、生き延びよう!
           (聞き手・阿久沢悦子)

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28日、小泉今日子さんと対談


「50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと」は左右社刊。248ページ、本体1800円。和田さんが著書について語るラジオ番組「武田砂鉄のプレ金ナイト」が10月20日(金)22時からTBSラジオで放送される。
10月28日(土)には本書の刊行を記念し、和田さんと俳優の小泉今日子さんとの対談「これから、ひとりでどう暮らそう?」が下北沢の書店B&Bで開かれる。店内参加はすでに満席。配信チケットはpeatixで販売中。


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