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あの朝、駅のホームから改札口へとつながる階段を下りていく人々の姿が、排水溝に吸い込まれる水にしか見えなかった。 人々の群れは、ただ物体の集まりでしかなく、血の通っている動物、ましてや意思を持つ人間とは思えなかった。それぞれにどれだけ濃密な人生が詰まっていようとも、あの流れには逆らおうとするものもないし、立ち止まることも許されていなかった。仮に自分があの中にいたとして、歩き方こそ違えど同じ動きをしていた。そういう意味で、彼らにとっては自分の姿も電車に吸い込まれる水でしかなかっ