マガジンのカバー画像

考えすぎと俯瞰のリズム

37
へんなものを見つけて考えて遠くから眺める 整合性と破壊、偏愛と狂気/冷静な神経質
運営しているクリエイター

2020年3月の記事一覧

見えざる奔流

あの朝、駅のホームから改札口へとつながる階段を下りていく人々の姿が、排水溝に吸い込まれる水にしか見えなかった。 人々の群れは、ただ物体の集まりでしかなく、血の通っている動物、ましてや意思を持つ人間とは思えなかった。それぞれにどれだけ濃密な人生が詰まっていようとも、あの流れには逆らおうとするものもないし、立ち止まることも許されていなかった。仮に自分があの中にいたとして、歩き方こそ違えど同じ動きをしていた。そういう意味で、彼らにとっては自分の姿も電車に吸い込まれる水でしかなかっ

傷をみせあうとき

「商店街の看板見える?」 「ちょうど今看板の下にいます。」 「あ、見えた見えた」 携帯電話を片手に近づいてくる彼女は、1つ年下の大学の後輩だ。長身で顔のパーツがはっきりとした彼女は大学時代の演劇仲間で、一緒の公演に出たこともあった。 たまたま彼女がTwitterで「今晩お酒を飲みたい」とツイートしているのを見た僕は、その日の予定がその直前にキャンセルになったこともあり、少し思い切って彼女に連絡したのだった。 演劇仲間と紹介したが、僕が他人との距離をかなり慎重にはかる