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おやじの口臭と冬の朝日に輝く娘の笑顔

 夜中に目が覚めた。なぜだろう。風邪をひいている影響か、鼻から息ができずに苦しかったからのようなか気がする。とにかく、目が覚めた。

 目が覚めた瞬間、目の前に娘の顔があった。すやすやと気持ちよさそうに寝ている。それが、にわかに険しくなる。まんなかに向かって、顔中の筋肉が集まりだした。幼い顔がしわくちゃになる。全力で何かを拒否しているようだ。何か嫌な夢でも見たのか?

顔だけでは拒否しきれなかったのか、うっすらと目を開けて一言。

「くさいっ!やめてよ!」

それだけ言うと、ばさっと上半身だけ起こして、反対を向いてしまった。

 「え?なに?なんかした?」

 そういえば、目が覚める前に思いっきり息を吐き出した気がしてきた。苦しくて、息を吐くのと同時に、目が覚めたのだ。風邪っぴきのトロトロの鼻水。口呼吸でカラカラに乾いた口腔。喉の奥につまった痰。こんなものがごちゃ混ぜになったオヤジの呼吸を思いっきり娘の顔に浴びせてしまったらしい。

 「ごめん」

 と言いながら、自分もまた反対を向いて、寝た。


 そして、朝がきた。いつものように娘が小学校にでかけるのを玄関で見送る。娘が玄関のドアを開けて一歩外に踏み出る。振り返えると、そこにちょうど朝日が差し込んでいる。いつもより透明な冬の空気のなかを、輝きを増しながら突き進んできた光線が、娘の顔に白く反射する。娘の周囲に暈がかかる。と同時に、娘が挨拶がわりに、ほんの一瞬、にっこり微笑んだ。

 ほどなくしてドアは閉まり、気がつくと暗い玄関に一人残されている。

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