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ドイツ語動詞メモ(1):absuchen

 ドイツ語の学習者にはよく知られているように、ドイツ語の動詞は基本動詞に様々な分離ないしは非分離の接頭辞が付くことで、多くの派生語が生まれている。こうして出来上がった語の多くは頻繁に用いられているため、それらの意味を覚えることをドイツ語学習者は求められる。そして、これらの派生語の意味を覚える時に重要なことは、接頭辞の意味を基本動詞の意味と組み合わせて理解することである。というのも、そうすることが意味を覚える際にかなりの助けとなるからである。
 こうした観点から、筆者が日々ドイツ語に触れている中で目に付いた分離動詞なしいは非分離動詞を1つ取り上げ、接頭辞の意味を解釈することでその動詞の意味を自分なりに理解しようとすることが、この「ドイツ語動詞メモ」シリーズの目的である。本来、こうした個人的なメモ書きは、言語学的な正確性を欠いているという弱点がある以上、公に発信する必要性はないと思われる。しかし、コメント機能が付いているnoteに投稿することで、筆者よりもはるかにドイツ語に造詣の深い方からの指摘を得られると考え、敢えてこうした形で発信することを選んだ。従って、コメントにて様々なご指摘を頂ければ幸いである。


absuchenの基本的な意味と例文

 シリーズ第1回目の動詞は、分離動詞absuchenになる。まず、Dudenのオンライン辞典(https://www.duden.de/)の記事を基にして、absuchenの基本的な意味と例文をまとめる。

1) 「場所をくまなく探す」

a) 何かを探しながら辺りをまわる
Die Polizei suchte (mit Hunden) die Gegend ab.
警察は(犬と共に)この地域を捜索してまわった。

b) 何かを探しながら視点をある方向に向ける
den Himmel (nach Fallschirmen) absuchen
(パラシュートを探して)空に視線を向ける

c) 徹底的に何かの中をくまなく探す
das ganze Haus nach Brille absuchen
メガネのために家全体をくまなく探す

2)「 何かを探して取り除く」

a) 何かを探して取り除く
Läuse absuchen
シラミを探して取り除く

Raupen (von den Sträuchern) absuchen
毛虫を探して(低木から)取り除く

b) 何かを徹底的に調査したり集めたりすることで取り除く
die Sträucher absuchen
低木をくまなく探す。
Die Affen suchen einander, sich gegenseitig (nach Läusen) ab.
サルはお互いのことを(シラミの除去のために)くまなく見る。

[分離]の接頭辞abに対する解釈

1) 場所について

 こちらの用例についてまず留意すべきことは、直接目的語になっているのが探しているもの自体(こちらについては前置詞nachを用いる)ではなく、探している場所となっていることである。このことから、探している場所に力点が置かれていると理解することができる。
 また、Dudenに採用された例文を見る限りでは、その探している場所に全て定冠詞が付いていることも重要であると思われる。すなわち、absuchenが直接目的語として取ることができる場所は、ある特定の範囲に限定された場所や空間であることが必要だと推察される。ただし、これについてはコーパスなどを用いて、そうした語の使用の頻度を確認する必要がある。
 これら2つの点から、[分離]の接頭辞abは、無限に広がる場所や空間から捜索対象となる空間を切り取るという意味を付与しているという理解をしたい。

2) ものについて

 こちらについては、[分離]のabの役割を理解することは容易だろう。すなわち、ある全体の中から目的のものを探し、それを見つけたら全体から分離するということになる。
 ただし、ここで興味深いことは、a)の事例では取り除くもの自体が直接目的語となっている一方で、b)の事例では探したりよく見たりする対象が直接目的語になっていることである。従って、b)の事例は1)の意味と非常に近いと言える。この点については、探したりよく見たりする対象に定冠詞が付いていたり、einanderやgegenseitigなどのようにその対象が特定可能な語を用いたりしていることと深く関係していると思われる。

おわりに

 今回は分離動詞absuchenを取り上げ、この動詞が有する2つの大きな意味群と接頭辞abとの関係を自分なりに考察してみた。基本的には、この接頭辞は[分離]の意味で機能していると思われ、それが「何かを捜索する場所」を分離するという意味と、「目的のもの」を他から分離するという意味に繋がったと考えられる。なお、動詞absuchenは派生語として女性名詞Absucheが存在する。こちらについても、今回取り上げた2つの大きな意味群にそれぞれ対応した意味を持っている。つまり、das ganze Haus nach Brille absuchenはdie Absuche des ganzen Hauses nach Brilleという名詞句で表すことができる。
 本記事がシリーズ第1回だったため、冒頭の導入文が非常に堅苦しいものとなった。しかし、本記事が十分にその役割を果たした以上、次回以降はそうした形式的な内容はできるだけ省略し、記事を目にする方々に配慮することを心掛けたい。


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