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【感想】ドン・ジュアン

『ドン・ジュアン』
«DON JUAN» un Spectacle Musical de FELIX GRAY
International Licensing & Booking of «Don Juan» NDP Project
潤色・演出/生田 大和

主演の望海風斗さんをはじめとして演技巧者揃い、スパニッシュからロックまで多様な楽曲を歌いこなす場面には夢中になりました。フラメンコギターがかっこよかった。
また、群舞も迫力がありました。
熱いエネルギーを感じた作品でした。そのような訳で、以下よりネタバレを含みます。



下衆な望海風斗さんを堪能できるという前評判を遥かに覆す、浅はかで複雑な幼児性を孕んだ主人公のドン・ジュアン
悪の香りは、ベネディクトとも、ルキーニとも違う人格で、よく作り込んだキャラクターでした。
一幕は、徹底して所謂下衆な主人公。
しかし、女性と刹那的にしか過ごすことができない哀れさすら感じました。
愛されれば逃げる、気持ちを弄ぶような距離感でしか女性と過ごすことができない。
快楽だけを単純に求めている、とは思えませんでした。
亡霊に取り入られて、はじめての愛を知り、二幕からは多幸感あふれ無邪気な青年に変わりました。愛した人に昔の男がいると知り、はじめての嫉妬に駆られる。
人間が発達の過程で体験する感情を味わえず育ってしまった…
ドンジュアンに同情の念すらわきます。

人の証である愛を知り死ぬというのは、何とも救われぬラストでした。
人を愛せず、感情を共感もできない結末が死しかないというのは何とも遣る瀬無かったです。

何故死ななければならなかったのか
(決闘とはいえ騎士団長を手にかけたのは明確な罪ですね…)

そんな父の絶唱に気持ちが震えました。


キャスト

主演の望海風斗さんは、幼稚さと妖艶さを同居させた人物を演じる幅広い圧倒的な演技力はさすがでした。
歌唱の人と形容される事が多い方ですが、歌を含めた表現力の豊かさが圧巻です。
妻を嘲笑う表情、亡霊に怯える表情、愛を獲得した、嫉妬に激しく身を焦がす表情など、その変わりように強い魅力を感じます。
そして、カテコの愛らしいご挨拶は同じ人とは思えない…笑

友人役の彩風咲奈さんは、本作における良心。絶品スタイルとノーブルな雰囲気がお役にマッチしていました。
わたしは、咲さんの歌が好きだなと思いました。優しい、しかし身を切られるような感情が伝わってきました。

ヒロインのマリアは、彩みちるさん
ディズニープリンセスのような可愛いお声、歌唱もセリフも本当に可愛かった。
彫刻家としての自分を受け入れてくれない婚約者、周りからは結婚の求めが愛だと言われ腑に落ちない、彫刻家の自分ごと愛してくれる新しい男性…
彼女の移り気は、同性として充分に了解可能でした。自由を奪うことは愛では無い。これは現代的な感覚なのかしら。
口角が上がって可愛らしい。ちょっと残念なのは鬘と自毛の境目に目がいって醒めてしまった瞬間が何度かあったことでしょうか。

マリアの婚約者は、永久輝せあさん
わたしは、彼女の美しい顔もさることながらあの特徴的な声が好きです。
金髪でやや長めのヘアスタイルがプリンスでした。二幕で嫉妬に見焦がれ壊れゆく痛々しさに、こちらも心痛しました。
有沙瞳さんとのハーモニーは声の相性が良いなあと思いました。ダンスもレイピア捌きもキレがあってかっこよかった。

ドンジュアンの妻を演じた有沙瞳さん
歌も演技も佇まいも美しい。
夫に裏切られ傷つき、亡霊に魅入られてしまう。悲劇の独唱が似合いすぎる。

香綾しずるさんの亡霊は、本当に不気味でティム・バートンの世界観でした。表情に引き込まれる。
ラファエルに決闘を挑んだドンジュアンのシーンで首を有り得ない角度に捻って歓喜を表現されて此方は身震いしました笑

英真さんの父からは複雑な心情を感じることができましたし、美穂圭子さんは存在感、圧倒的な歌唱でした。
諏訪さきさん、舞咲りんさんも安定の歌唱だったな。
あ、やはり一番のインパクトは煌羽レオさんのセクシーすぎる女役に尽きるかと。バキバキに鍛え上げられた腹筋と無機質なのに色気…口が開きました。

見終わった後は、胸がひりひりと痛む作品でした。

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