#012_寝癖おじさん

朝は昔からパン派だ。
浅めにトーストしてハムを挟み、ケチャップをかける。

そんないつもの朝食が、今日はとれなかった。

いつもの時間にいつもの目覚ましが鳴り、いつものテレビ番組を観ながら目が覚めるのを待っていた。なんの問題もない朝だった。

いつもより早く出社するべき日だと思い出したのは、アイデア商品を紹介するコーナーが始まったときだ。

人間、追い詰められるととっさに捨てるべきものが見えてくる。
断捨離が流行ったが、早い話がみんな追い詰められれば捨てるべきものは捨てられるのだ。
断捨離が成功しない理由など、追い詰められていないから以外にはない。

鏡を見ている暇もなく、家を飛び出した。
電車に乗り、頭が通常運転に切り替わると、とたんに物事が冷静に見えてきた。

汗をかいている。走ったからだ。もういい年なので匂いが気になる。

ネクタイをしていない。だがかばんには入っている。

寝癖がついている。しかし目の前に座っているおじさんも同じようなものだ。

会議にはなんとか無事に間に合いそうだ。