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TVCM作る側(=制作会社)と受け入れる側(=地方)

2013年4月〜2021年3月まで丸8年、TVCM制作会社でさまざまなCMを制作する側のお仕事をしてきた一方で、2021年4月〜現在、小さな田舎町へ移住し、映画・ドラマ・テレビ・CM・MVなどの撮影を受け入れる側のお仕事をしている西伊豆の移住女子こむさんです🙋‍♀️

「受け入れる側」と言っても、ただ単に撮影スタッフの現地スタッフとして働いているわけではありません。“あること”を目的として、撮影サポートを行なっています。

ー 元制作会社勤務の人が、地方に移住して何ができるのか ー

今回はこれについて触れたいと思います📝


【制作する側のこと】

CMはお断り!ジャンルによって異なるルール

CM制作の現場は、スタジオだけで撮影を行うものもあれば、屋外ロケやハウススタジオ、一般家庭、結婚式場、鉄道など、ある特定の施設で撮影を行うものなどさまざまです。
私もかつて、沢山のロケ地をリサーチしては、現地に足を運びロケハンする、そんな生活が日常茶飯事でした。

沖縄ロケでの一コマ。出演者の代わりに立ち位置に入って撮影場所を探ります。

そして、施設を借りて撮影を行う場合は、大抵の場合、以下のようなルールが設けられています。

  1. スチール(静止画)撮影よりムービー(動画)撮影の方が施設利用料金が高い

  2. 映画・ドラマ・テレビ番組の撮影利用OKでも、CM撮影はお断りの場合がある

ー なぜ、CM撮影はお断りなのか

「CM=広告」というものは、特定の商品やサービス、自社の宣伝をするために、企業が大きな予算をかけて制作するもの。
映像の中には、他社のロゴやキャラクターの露出などはもちろんのこと、映画のように撮影協力した人や団体などをクレジットで表記することなどは、基本的にNG行為とされています。エンドクレジットが表記されているCMなんて、ほとんど見たことありませんよね?🧐

しかし、ロケ地を提供する側の施設や自治体などは、撮影協力する代わりに、企業イメージUPなどのためにも作品を通して自社のこともPRしたいものです。
そんな時に、映画やドラマでは、“エンドクレジット”でロケ地名や企業名、撮影協力した人の名前などを掲載してもらえることも多く、自社のPRに繋げることも可能です。

「ロケ地を貸し出す=自社のPRにも繋げる」を理由に、撮影を受け入れている施設などは、上記のような理由からCM撮影を断るケースもあるのです。
もちろん、施設貸し出し料金は発生するので、直接PRに繋がらなくても、実際売上は上がるということで、CM撮影をさせてもらえるロケ地ももちろんたくさんあります。

ロケ地探しは、首都圏から移動時間1〜2時間圏内

数人〜数十人、多い時には100人以上のスタッフや出演者が稼動する映像制作現場。ロケ地を探すと一言で言っても、移動費や場所によっては宿泊費はかかりますし、もちろん関係者の人数が増えれば増えるほど旅費は増えるものです。
そうなると「極力移動距離が短い場所や、日帰りで行ける場所で撮影を行いたい」と考えるのは、予算のことを考えると当たり前のことですよね。

水平線が見えるロケーション。それだけが選定理由なら全国各地に山ほどある。

実際に、都内の制作会社で勤務していた私も、ロケ地探しといえば、基本的に都内近郊、少し遠くに足を伸ばすとしても千葉県や神奈川県、伊豆まで行くともう遠いなあ・・・という距離感でした。

しかし、冬季に夏のロケーションで撮影しなければならない時は、海外ロケや沖縄ロケを行うこともあれば、そこにしかないロケーションを狙って撮影する場合には、飛行機での移動が必要なロケ地に行くことももちろんありました。

メガネザルを撮影するためだけにフィリピンロケに行ったこともあります(笑)

・・・が、私が今住んでいる静岡県西伊豆町は、正直、選択肢に入ったこともありませんでした(笑)

【受け入れる側のこと】

そもそも私は何のために撮影サポートをしているのか

私は、何のために西伊豆に撮影に来てくれる撮影スタッフの「撮影サポート」を行なっているのか。それは、第一に「メディアでの露出を増やして西伊豆をPRしたい」からです。
そして更には、地元に住む住民の皆さんに「自分の住む地域の素晴らしさに気づいてほしい」「誇りに思ってほしい」ただそれだけです。

地元住民にとっては当たり前の風景でも、首都圏に住む人にとっては非日常の風景
(西伊豆町安良里漁港)

しかし、何かを宣伝するためには、冒頭でも触れたように多大な費用がかかります。TVCMは典型的な“ソレ”です💸

私は、そうではなくて、費用をかけず、かつ、町のことをPRするチャンスを可能な限り掴みたい。そのために、自身の経験を活かして撮影サポートを行なっているのです。

西伊豆に舞い込む撮影依頼

私が住んでいる静岡県東部に位置する「西伊豆町」は、ざっくりこんな街🏘️

  • 海と山がすぐ近くにある

  • 観光地

  • 首都圏から車で約3時間

  • 電車が通っていない(最寄駅から車で約1時間)

静岡県西伊豆町の安良里地区上空からの風景

実際に、西伊豆へ撮影の問い合わせを頂く内容の多数はこんな感じ📲

  • 旅番組(観光地としては、首都圏からも比較的近い立地ですからね!)

  • 港町や海辺のロケーション

  • 草原や森林、山や川のロケーション

  • 昔ならではの街並みのロケーション

  • 夕陽が撮影できるロケーション

  • 移住番組(近年の流行)

西伊豆の旅番組定番!観光の中心地「堂ヶ島」
古くから続く鰹節の加工工場「カネサ鰹節商店」の作業風景

しかし、大概の場合、競合となるロケーションは、決まって千葉や神奈川、茨城、埼玉、といった場所です。
観光地を取り上げる「旅番組=テレビ」では最適なロケーションだとしても、映画やドラマ、CMでは、移動距離や旅費などさまざまな項目で天秤にかけられるのが現実です。海辺のロケーションがある町なんて、海岸沿いを辿れば無数にありますし、山も同様。
目に見えてすぐに判断材料になるのは「移動距離」です。

西伊豆をロケ地候補として選択肢に入れたことがない自身の経験からも、そこにある“特定のネタ”を求めて舞い込んでくるテレビ番組以外の映画・ドラマ・CMなどの撮影チームにとっては、とても不利な立地になります。

この地域を選んでもらう理由を作り出す

撮影サポートに限らず、全国・全業種には、競合と呼ばれるものが存在すると思います。不利な立地にある西伊豆。この地を選んでもらうためには、差別化しないと選んでもらえない。
だからこそ、西伊豆ではこんなことに取り組んでいます。

  1. 唯一無二のロケーション開拓

  2. スタッフが撮影しやすい撮影サポート体制を整える

<1.唯一無二のロケーション開拓>
海辺や山のロケーションというのは、全国を探せば無数に出てくるとは思います。
しかし、古くから残る建造物や廃墟、この土地ならではの風景、夕陽などの西海岸ならではの自然現象。
こう言った「ここにしかないロケーション」というものを、日々開拓しています。
ここにしかないロケーションを発見した撮影スタッフというのは、それ以外のありきたりなロケーションというのも、その近くで探す傾向にあります。

静岡県西伊豆町「乗浜海岸」
干潮時にのみ沖の島へ繋がる道が出現する“トンボロ現象”を見ることができる「堂ヶ島のトンボロ」

<2.スタッフが撮影しやすい撮影サポート体制を整える>
海辺や山と言ったありきたりなロケーションの場合でも、その場所の許可取りをはじめ、撮影をするにあたって宿泊先やロケ弁、控室、駐車場、など調整しなければいけない項目は膨大に発生します。
そして、小さい町になればなるほど、その情報源というのは残念ながらネット検索では全てを拾い切ることは未だに難しいです。
そう言った時に「地域住民がサポートしてくれる町」というのは、撮影スタッフにとってとても心強いポジションとなり、移動距離を土返しに「ここで撮影しよう!」と決めてくれる確率も上がるのです。

地方に移住した私は現在、実際に役場の職員さんとタッグを組んで、撮影スタッフのサポート業務を行なっていますが、率直に言うと「地方の公務員ってこんなに働いてくれるんだ」「許可取りってこんなスピーディーに行えるんだ」と正直驚きの連続でした😳西伊豆、本当にフットワーク軽いです。
なんせ、制作会社勤務時代、休日や平日でも17時で電話が繋がらなくなるロケ地とやり取りをする時のお決まり文句は「これだからお役所仕事は・・・」でしたからね(笑)

私たちはただのボランティアではない

立地的に不利な私たちの地域では、まずここでロケ地候補の土俵に乗ります。
私はさておき、公務員でもある役場の職員さんからすると、正直、従来の公務員業務からすると業務外の仕事だと思います。土俵に乗ったところで、実際そこにかけた労力というのは、それだけではきっとマイナスでしょう。地方の役場というのは、職員さんの人数も限られているので、一人当たりの業務量も多いですからね。

しかし、何度も言いますが、私たちは撮影に協力する代わりに「町のPR」をしたいのです。ここから駆け引きは始まります。
そしてそれは、「町」だけではなく、もちろん町内の事業者さんにとっても同じく言えることです。

何事も後出しの「事後交渉」では、うまくいくことはそう多くありません。撮影サポートをする中で「町のPRをしたい」ということも徐々に交渉を行なっていくのです。

ここまでの流れで、作る側だった経験を持つ人の知見というのは役立つものです。

  • 撮影スタッフが求める「サポートしてほしいこと」が、相手側の気持ちになって理解することができる。

  • PRの交渉をする時に適切な交渉方法が読み解きやすい。

  • 機密情報を取り扱う撮影スタッフも、安心して相談ができる。

そう、「制作会社勤務」の経験を持つ人材というのは、撮影スタッフ側にとっても、ロケ地提供側にとっても、強力な味方となる立ち位置なのです🤝

実際に交渉が成立し、大人気ドラマでロケ地を紹介してもらえた時の反響はものすごかったです。


【全国では今、積極的にロケ誘致を行う自治体が急増】

ロケツーリズムに取り組む自治体

西伊豆をはじめ、全国には同じように「ロケ誘致=ロケツーリズム」に取り組む自治体や企業が増えています。
私自身は、制作側としては8年の経験を持ちますが、受け入れる側としてはまだ4年目。わからないこともまだまだ多いのも事実です。
というわけで、年に数回、定期的に東京で開催される“ロケツーリズム協議会”の集まりに出席し、各自治体の取り組みや実績、成功例などを情報交換する会合に参加しています。

ロケツーリズム協議会で登壇した時の様子

その他にも、PRに繋げるための手法を学んだりと、制作側だけでは知り得ない情報を未だに勉強している最中です。

ちなみに、この協議会にはもちろん、受け入れる側の人だけではなく、制作側の人も参加しています。ロケ誘致したい自治体&企業ロケ地を探している制作側は、常に両者存在しますからね。この場で両者が出会うのです🤝

最後に

と、何だか長くなってしまいましたが「元制作会社勤務の人」は、このような形で、地方に移住して力になれることもあるのです。
私はまだまだ途中段階なので、更にこの先に挑戦したいこともたくさんあるのですが、まずは入門編ということで今回はこの辺りまで。

私と同じ境遇で既に地方に住んでいる🙋‍♀️という方や、ロケツーリズムに興味がある🙋という“まだ”制作側の人も、何か参考になればと思います😊


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