信じる力(123
気がつくと
またあの裸に近い人たちが
愛しい眼差しで生きている世界にいた。
あの女の人が
私のところへ歩んできた。
「おかえりなさい。」
そういうと
ふわっと私の中にとけこんだ。
なんとも暖かく
内側から愛しさが溢れてくる。
手を挙げるそれが
口を開こうとするそれが
息を吐くそれが
愛しさで溢れてしまう。
「あなたはあなたを思い出したのね。」
そう内側から
あの女の人の声が響く。
それだけで
十分だったのかもしれない。
すると横に男の人がいた。
「おかえり。サッディーヤ。」
あの時の。
私はその人を見つめる
その自身の眼差しが愛しさで
溢れてるのがわかった。
「ただいま。アッディーヤ。」
「君を見てたら、もう
戻ってこれないんじゃないかと
おもうときがあったよ。」
「ずっとみていたの?」
「あぁ。ずっとみていたさ。」
「わからなかったわ。」
「わからなくてあたりまえだ。
まだ君は戻ってきてはいなかったから。」
「私。なぜここに戻って来れたのかしら。
わからないわ。何をしていたかも
思い出せない。」
「信じただけだ。
理由も条件もなく
ただ
信じただけだ。
それが一番愛に近い力だよ。
君は君の愛を
忘れる必要があっただけだよ。
それはね
僕達が一緒だということを
忘れない為だ。
僕等は君の中での
愛を生み出し続ける場所だからね。
共にある時は
それが当たり前だからわからない。
信じる力を
この場所を
忘れない為にも
約束を思い出す為にも
そのために
一度自分を
忘れる必要があっただけさ。
忘れても
思い出せたのなら
もう忘れない。
そして
君は君を思い出してくれた。
嬉しいよ。サッディーヤ。」
そういうと私を抱きしめた
自分の身体が泡になってしまいそうな
溶けてしまいそうな
とても暖かく心地よく
幸せで涙がハラハラと落ちてきた。
愛をもう二度と忘れない為に
愛を忘れる必要があった
それだけだったのね。
ふと目を開けると
そこにはアッディーヤは消えて
セナがいた。
「セナ。。。わたし。。。」
「生きている。とはそういうことだ。
そなたの中から生み出されるもので
あの世界へ向かうためにある。
そなたの目の前で何が起こってるのか。
そなたの目の前で何が形作られているか。
そこに意味は一切ない。
形ある世界の作り方に押し進める中で
私達龍族は意識を閉ざし
私達龍族は約束を忘れて
私達龍族は迷いの中を彷徨うようになり
この世界への役割を忘れてしまっただけだ。
この世界に来る役割は
ただ一つ
見えない世界を
見える世界の中で形作られるものを使い
創り上げるだけだ。
今はただ
その道を真逆に使っているだけだ。
推し進められる世界は
人が孤独の中で願いを放ち
形作られるように進められてる。
構造はおなじだからな。
本来願いなどない。
願いは作られている。
あるのは想いだけだ。
見えない中で
何を生み出しているか。
それだけだ。
見える形には何一つの
意味がない。
争い一つにしても
意味はない。
見える世界でどんなに争いを非難しようが
その想いが争いをつくり続けるだけだ。
今はただ
見える世界を形作られる為に
その世界を推し進められるために
想いを生み出すのではなく
意味を見出すように
運ばれているだけだ。
生きていることにも
死んでいることにも
なんの意味などない。
ただ
その中で
何を生み出し続けるのか。
そなたは龍族の女だ。
そなたの頭は忘れても
そなたの血は覚えておる
目の前に起こること
目の前に現れる言葉
目の前に映ることに
惑わされるな。
人は人を変えようとする。
龍族は人を変えることはしない。
世の中も変えようとはしない。
ただただ
うちなる見えない想いに気づき
何を生み出しているかに気づき
自らを変える力がある
惑わされず
見極めながら
しかと進め
そして
その時がくれば
手を取り合う必要になる。
その時が必ずくる。
その時は必ずつながりあう。
その時まで
何度繰り返してもいい。
何度も繰り返しながらも
しかと進め。
推し進められる世界に惑わされず
信じる力で切り開け。
何かあれば
私を思い出せばいい。
ヒノコ。
そなたはもう大丈夫。」
そういうとセナは
私の中に消えていった。
セナは私と共にいる。
いえ。
セナは私と共にいたのね。
瞼の裏がやけにあつくなり
ゆっくりと目を開けるとオオミヤマ様がいた。
「目を覚まされたか。」
そう、優しい表情で私を見つめられる。
その中にある暖かさが
私の目を通して
流れ入ってくるよう。
「えぇ。オオミヤマ様。
ありがとう。」
「さ、そろそろ行くとするか。」
オオミヤマ様は立ち上がり
馬の毛並みを撫でて
馬を見つめた。
この子も知ってるのね。
「ヒノコ。馬の瞳はなんだか
すいこまれていくようだ。」
そうおっしゃり
馬にまたがった。
私も立ち上がり
オオミヤマ様の方へ
歩いた。
オオミヤマ様が手を差し伸べてくださり
私はその手を握った。
まるで私が私の手を握るような
安心感と暖かさが
私を包んだ。
「さ、まいりましょう。」
美しい朝日を横に
鳥たちの音色と共に
私たちはまた
山道をあゆみはじめた。
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