あの場所で(122

オオミヤマ様と私は馬に揺られながら
山道を走った。

オオツカミヤ様と数名の方々も
途中まで一緒にいた。

「もう少しだ。」

そうオオミヤマ様がおっしゃった。

まだ暗いけれど
鳥の声が山に響いて美しい。

なんだか先の方が
茜色に染まってきたかと思うと
山が一斉にシーンと静まり返った。

とても不思議に感じていると
開けた場所にでた。

「ついたぞ。」

そうオオミヤマ様がおっしゃると
綺麗に太陽の光が上がってきた。

「美しいだろう。」

太陽がこんな風に上がるのを見たのは
初めてだった。

夕日はとても美しく沈むけれど
太陽がこんなに大きく間近に感じるように
上がるのをはじめてみた。

「オオミヤマ。私どもはここから
一度奥の宮の準備へ向かう。
大丈夫か?」

「あぁ。もう大丈夫だ。」

「ヒノコ様。ご心配なさらず
ここから向かわれるところは
きっとヒノコ様も
好きになられる。

こちらはお任せくだされ。」

「オオツカミヤ様。
ありがとうございます。

ヒビミカホ
サハクにそして
ヒカホをどうかどうか
よろしくお願いいたします。」

「大丈夫だ。心配されるな。」

そうおっしゃり
オオツカミヤ様と数名の方は向かわれた。

私とオオミヤマ様は
そこで少し休むことにした。

「お疲れではないか?」

「大丈夫でございます。
オオミヤマ様こそ大丈夫でしょうか?」

「私は大丈夫だ。
ヒノコ。朝日は綺麗だなぁ。」

「本当にお美しい。
はじめてこんな日をみました。」

「わたしはな、北からそなた達のいた
地へと向かってきた。

私たちの先祖は
遠い遠い地から
陸を歩き続け
星を頼りに東の地へと向かい続けた。

昔々
共にいた種族が
陸をわたるもの
海を渡るものと別れていき
その途中途中で
血を残すために
その土地その土地に
残りながら
それでも
東の地へと向かった。と言われておる。」

「私もその話はばぁ様から
聞いたことがあります。

だから私達の守りの言葉

マナヒマナハレマナヒカヤ
マナハレヒカヤマナハレヒ

私があなたを守り
あなたが私を守る

あの場所で会おう

って。」

「なぜ東の地かしっておるか?」

「知りませぬ。」

「東の地こそ私たちがいた場所だからだ。

その頃はもっともっと大陸も広く
繋がっていた。

人々の意識はつながり
言葉もなく
意識だけが生まれ出る
それだけで生きていた。

争いもなく
みなが皆をわかり
力が一つになっていた。

戻らなければならぬ。

あの地からこの地へと
戻らなければならなかったのだ。

ただ
あの地での出来事が
大きく影響を私達におこし
意識がどんどん閉ざされていった。

と聞いたことがある。」

「オオミヤマ様。セナが言っておりました。」

私は人にセナの話をするのは
はじめてだった。

「セナ?セナとは
龍族の儀の遣いか?」

「遣いとは?」

「龍族の女には血を守る役割がある。
その時、儀を選ばれるものは
遣いによって定められておる。

そなたは定められておった。

遣いによって
女達は龍族の役割を思い出し
それをこの地へ降ろして行く役割だ。

セナはなんとおっしゃっていたのだ?」

「この世の創りとあの世の創りは違う。
それを見間違えてはならぬ。

と。」

オオミヤマ様は、驚いた顔をしたと
思うと、笑顔で笑われた。

「それはセナのゆう通りだ。」

「私はわかるような
わからないような。でも
馬に乗る前にオオミヤマ様が
おっしゃったことと
なんだか通じるところがあるように感じて。」

「ヒノコ。なぜ私達は生きておる?
命が“ある”とおもっているか?」

「わかりませぬ。」

「この命は自分の命ではない。
それを忘れたもの達の世界がある。」

「セナも言ってました。
形あるものへと押し進められている。って。」

「そうだ。それがあの地でおこり
私達種族がバラバラになっていった理由だ。

その先はもう決まってしまう。

この身が滅びたら滅びるような
不安定なものでしか
世界が成り立たなくなって行く。

この身は大事ではあるが
全てではない。

この身を使っている時に
この身で何を形作るかよりも
この身をつかいながら
この身で何の想いを生み出すか

それが大事だと。

ヒノコ
私達は命の上でしか存在できないのではなく
想いの上でしか存在できない。

形を生み出すものになるのか
想いを生み出すものになるのか

それは
同じなようで
全く違う働きだ。」

「でもどちらも大事なのでは。

形がないと、こうやってオオミヤマ様を
見つけることも
ヒカホやサハクに気付けることもないわ。」

「それは命を使って
想いの上で成り立っていることだ。」

気がついたら
また鳥が鳴いていた。

透き通ったあの美しさ。というより
今度は音にもっと重みがあるような
元気な音に感じる。

命を使って想いの上で成り立つ。

その言葉が頭の中に残りながらも
うつらうつらと
瞼が重くなってきた。

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