覚えている感覚(105
「いいか霊巫女。ここからは
この者たちについていくのだ。
わたしは一度、マナヒへ戻る。」
「婆様は?爺様は?イヨ達は無事なのでしょうか!!」
霊巫女はオオミヤマの腕を
力強く掴んでうったえるように伝えた。
オオミヤマは霊巫女のその手をつかみ
はなし、霊巫女を抱き寄せた。
「霊巫女。必ず必ずそなたを
わたしは守る。
今度こそ、そなたの命は
私がお守りする。
みな、そなたの命を守っておる。
必ず。必ず生きるのだ。」
霊巫女はこの温もりも知っていると
感じた。
このお方はずっと
守ってくれている。
それが何故だかわかった。
「この船はまじないがかけてある。
この者達はみな、海のことに長けている。
この湖を抜け、海に出よ。
のちに、龍族のもの達と合流する。
そなたは一人ではない。
わたしも、みなが、そなたの命と
共にある。
生きることだけを考えられよ!」
「オオミヤマ様。わたし、わたし。。。」
「霊巫女。忘れるな。
私も皆も、何度でも、そなたに会いにいく。
どこにいたとしてもヒノコを探しいにくい。
心配するな。もう時間がない。いけ!」
わたし
そう
わたしは
ヒノコ。
周りの人達と共に、船に乗り込み
霧で当たりが全く見えない中
船はその場から
オオミヤマから
離れていった。
霧のせいか、オオミヤマの姿は
すぐに見えなくなった。
胸がギュッと苦しくなるような
息ができなくなるような
苦しさを覚えて
霊巫女はその場で崩れた。
この痛み。わからないけれど覚えている。
ここで同じように
オオミヤマ様と離れた気がする。
離れたくない。
離れたくない。
どうしても一緒にいたい。
そんな
思いが
涙となって止めどなく溢れてきた。
これからわたしはどうして生きていけば良いのか。
何が起こっているのか。
この感情はなんなのか。
もう全てがわからなくなっていた。
「さ、こちらに来て休まれて下さい。」
少年のような、あどけない男の子が
横になると気持ち悪くなるだろうからと
背もたれのある
座って休めるところへと
案内してくれた。
「そなたは?」
「私はカムナのものです。名はトウムと
申します」
「変わった名ね。」
「私達のご先祖さまは、南の国から
来ております。その名残だそうです。
霊巫女様。しばらくは揺れもひどくありません。ゆっくりとおやすみ下さい。」
霊巫女は何が起こったのか
わからなくて、考えることもできなくなっていた。
トウムのいうように
少し瞼を閉じて、背もたれにもたれかけた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?