月の記憶(20

ゆっくりと体を起こし

あたりを見渡すと

セナの姿はどこにもない

あれは夢だったのかしら

思い出せない。

セナの音にどんどん包まれて

引き込まれて…

そこから思い出せない。




「ヒノコー」

その時、どこからか

ばあ様の声がした。

「ヒノコ、どこにいたのだ。

探しておった。ここで何をしてたのだ。」

「月があまりに綺麗だから

外で見ていたら

いつのまにか眠っていたの。」

「そうか。それより早く着替えなさい。

霊巫女様がそなたをお呼びだ。

着替えて支度をしたら

向かうぞ。」

そういうと、ばあ様は急いで行ってしまった。

霊巫女様とは

あれ以来お会いしていない。

わたしは急いで部屋へと戻り

着替えを済ませて

支度をした。

そこへばあ様がやってきて

いっぱいのお茶を飲ませてくれた。

身体が冷えるといけないから。って。

そのお茶を飲み干すと

休む暇もなく

ばあ様と霊巫女様の元へと向かった。



「お久しぶりです。霊巫女様」

「ヒノコよ。お久しぶりね。

そなたを今日ここへ呼んだのは

次の新月へ向けての事なのだ。

姉様、少し下がっていただいてもいいかしら。」

「霊巫女様。かしこまりました。」

そういうと、ばあ様は行ってしまった。

「ヒノコよ。その後はどう?

変わりはなくって?」

「特に変わったことはないけれど。。。」

「けれど??」

「海にいく回数も減り

人に会う回数も減り

少し寂しい気持ちもあります。」

「ふふ。そうね。ヒノコ。

あそこにずっと過ごしていて

同じ事を繰り返すのは

少し物足りなさも感じるものねぇ。」

と優しく微笑んで下さった。

わたしは思いきって聞いた。

「霊巫女様。

霊巫女様はこちらにずっと一人で

いらっしゃるのですか?

寂しくはないのでしょうか?」

「なぜ?!寂しくはないわ。」

「わたしは、一人でずっと

こもっているのは

正直耐えきれない気がして。。。

私は儀が終えたらどこにいるのでしょうか。

どこにいたらいいのでしょうか。」

この先どうなるかわからない不安を

霊巫女様にぶつけてしまった。

「ヒノコ。不安になる気持ちはわかります。

けれど、儀式がすめば

そのお気持ちもきっと楽になるはず。

一人とあなたは言うけれど

ずっと一人とは、限りませんよ。」

しばらく沈黙の時間があった後

「ヒノコ。こちらへいらっしゃい。」

と奥の間へ案内された。

そこには

一つの

見たことのないような

お召し物があった。

「今度の儀式でそなたは

この羽衣を見に纏うのです。」

「こんな綺麗なものを?!私が?!」

「気に入ったかしら?」

「気に入ったも何も

こんな素敵なもの初めて見ます。」

「これは、私についてくださる

龍神様の遣いが運んできてくださった。」

「龍神様??」

「そうよ。アマタツにいた頃

わたしはよく龍神様とお話ししていたの。

あそこは、様々な龍神様が

様々な場所でお休みになられているから。

あなたは幼いからアマタツの記憶は

あまりないのかしら」

「はい。ほとんど覚えておりません。」

「無理もないわ。

ここ出雲の地は夕日が綺麗に沈むけれど

月は遠く感じるわね。

昨日の満月はいつもよりは

近くにいらっしゃったけれど。

アマタツはね

月がとても近くに感じるのよ。

龍神様達は

色々な方がいらっしゃって

左右に移動されるお方や

螺旋を描きながら移動されるお方

上下に移動をされるお方

様々なお方がいらっしゃる。

その中でもお力のある方は

月へ記憶をお運びになられるの。

この地上と月を結び

その両方の記憶を合わせて

月と地の関係を深める役割を

担っていらっしゃる。

霊巫女という役割は

その担い手の手伝いでもあるわ。

龍神様が持ってきてくださった

月の記憶と土地の記憶から

ここの国で起こる事を予想して

伝えていく。

それをここでわたしはし続けている。

あなたは龍神様にお会いになったでしょ。」

また、海で出会ったあの不思議な生き物を

思い出した。

















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