いつかの場所⑧

「ヒノコ、ヒノコ!朝よ!ヒノコ!」

うぅ〜ん。目が中々開かない。もう朝になったのか。小鳥のさえずりが清々しい朝を伝えている。身体を思いっきり伸ばし、上半身を起こすとバァバが座っていた。

「バァバ!!」

びっくりして、思わず正座をしてしまった。

「よく眠れた様だね。ヒノコよ。さぁ、支度をしなさい。今から出かけます。私についてきなさい。」

半分寝ぼけたまま、バァバに言われた通りに支度をした。準備をしながら、夜中のセナとの会話を思い出していた。
世界に明け渡したら、私は私になる…
いつも、セナは難しい事を言う。わたしはもうわたしなのに…。
そんな事を考えていたら、後ろから

「ヒノコ。この棒はどうしたものだ?昨日も持っていたけれど、よく見ると、ただの棒じゃないね。」

「そ、それは…拾ったの!海で拾ったの!岩場で貝を探していたら落ちていたわ。」

「なぜこの棒が海岸へ…この形の、この棒を他に持つものはいないはずなのに。昨日は気がつかなかったけれど。」

バァバはこの棒に見覚えがある様だった。

「バァバはこの棒のことを知っているの?」

「知っているも何も、私の育った島に昔から伝わり続け、儀の舞の合図の際、鳴らす棒だ。けれど、これは、あのお方しかお持ちじゃないはずなのに、なぜヒノコが持っているのかわからない。」

「バァバの育った島?南の果ての小さな島の事?龍が交差し、集まり、またそれぞれに向かう中心の様な場所の事?」

「そうだ。そなたもここにくる前は、そこに住んでいた。風が岩を作るといい、その姿を面白そうにみては、なにかと遊んでおった。」

覚えているような、覚えていないような。
やっぱり思い出せない。

「覚えてないのは無理もない。そなたはまだ幼子だった。ヒノコの母親は龍神様の姿を見る事ができたから、お前のそばではいつも龍神様がきて、一緒に遊んでいる。と言っておった。」

お母様はそんなお方だったのね。

龍神様…

ふと、海岸で血を流していた、不思議な物体の事を思い出した。あれは龍神様だったのかしら。

「それはそうと、急がねば。朝の施しの前にはいかなければ。ヒノコ準備は整ったか?その棒もお持ちなさい。」

わたしは支度をして、棒を持ち、バァバと共に出かけた。ヒカホはそのまま、マナヒに向かうと言うので、わたしはバァバと二人だけで歩いた。
どこに向かうのか。と思っていたら、そこは社(やしろ)だった。

「バァバ。なぜここに?」

「静かに!ついてきなさい。」

社の右横に竹藪があるのだけれど、その竹藪に細い道が続いていた。少し上り坂になっていて、バァバの後ろ姿に静かについて行った。

「いいかい。ヒノコ。この階段を歩いている最中に、言葉を発してはならぬ。黙ってわたしについてきなさい。」

そう言うと、バァバは歩き出した。わたしも離れないように、後ろを歩いた。

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