心の風(113

久しぶりの木々の香り。
土地の暖かい大気。

地を踏み締めるって
気持ちいい。

足の裏の傷はまだ少し痛むけれど
こうやって大地を踏んでいるのは
久しぶりな気がした。

「トウム。
海の上は最近どう?」

カヤがトウムに聞いた。

「東へ上がる風が強くなっている。」

「そちらもなのね。
いよいよ始まるのかしら。」

「何がだ?」

カヤは驚いてトウムを見た。

「知らないの?トウム。
東の地の半分は異国が入っていることを。」

「君だって異国だろ。
僕だってそうだよ。」

「そう言ってしまえばそうだけれど。。」

「船の住人は異国のものさ。
地にいるもの達は分けたがる。」

「あ!姉様!」

髪が長いサラッとした
女性が、甕に水を汲んでいた。

「カヤ。あらトウム。
おかえりなさい。」

「様。お久しぶりです。」

「トウムったら
姉様だけには弱いんだから。」

「そんなことない!」

トウムが恥ずかしそうだった。

このお方は誰なのかしら。
トウムとカヤのやり取りを微笑みながら
みたその瞳で
私を見つめてきた。

ここの方々は真っ直ぐ私を見つめるのね。

わかってる。見定めているのを。

私の地にもあるならわしだ。

「ヒビミカホ様。
このお方はヒカホ様です。」

ヒビミカホ様は
甕をおいて
私の前まで来てくださった。

「あなた。とてもお疲れね。
今暖かい湯をお作りします。

カヤ。火を。」

「わかったわ。」

そういうとカヤは走って行った。

「トウム。大変なお役割をありがとう。
ヒカホ様は私がお預かりいたします。
オオツカミヤ様から伺っております。

ヒカホ様の場所はここからは
私がご案内致します。

トウム。ゆっくりと休んでいって下さいね。

また風と同じく去っていくんでしょうけどね。」

そういうと微笑まれた。

「私達は風に乗らないと
生きてはいけない種族です。

ヒビミカホ様。

オオミヤマ様からのご伝言を。」

「トウム。オオミヤマ様は大丈夫。
彼の方はどんなことがあっても
生き延びられますわ。」

「はは。やっぱりヒビミカホ様には
かなわない。
お見通しだ。」

「土地の上にいると
風に乗るために使っていた術が
心の風を読むのに役立つようになったわ。」

オオミヤマ様。
抱き寄せられたあついぬくもりを感じた。

まだ生きていらっしゃる。

そう感じた。

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