日が昇る(112
「ヒノコ様!ヒノコ様!
見えてまいりました!」
うっすらと遠くに岸辺が見えてきた。
まだあたりは薄暗く
ただ香りだけが朝の香りを風が
運んでくる。
「ちょうど朝日が昇る頃に
あの岸へ着くことになりそうです。」
そうトウムが話すと
岸の先に見える山の向こう側の
空から色が
暖かい色に少しだけ変わってきている気がした。
「これからどこに向かうのですか?」
「新しく住む土地です。」
「新しいと言っても、あのもの達も
以前はヒノコ様と同じ地に住んでいたもの達。
安心してお過ごし下さい。」
新しい土地。。。
ふとあの時の景色が脳裏によぎった。
母様達がいなくなり
私とヒカホと婆様で
船に乗り
同じように
あの地へと向かった。
最初は岩肌が激しい場所で
住む場所なんてあるのかしら。と
思っていた場所。
私達の過ごした場所。
ヒカホは元気かしら。。
婆様達は大丈夫かしら。
ねぇセナ。
ハッとした。
ここ数日セナと離れていたことを。
「ヒカホ。
そなたの向かう道はその岸辺じゃない。
もっとその先になる。
ヒノコ。いいか。
よく聞いてくれ。
その土地には様々なものが
混ざっておる。
トウムはそれを知らぬ。
いいか。
言葉を使うな。
言葉は使わず
意識だけで見定めろ。」
セナ。姿は表してはくれなかった。
この私の脳裏に響く言葉は
あなたの言葉。
私はそれを信じる。
わかったわ。セナ。
トウムが、顔を輝かせている姿を見ながら
私は心を鎮めているようだった。
ゆっくり船が岸に近づいていく。
そこには
一人の女の子が待っていた。
トウムがその子に手を振っている。
その子もぶり返している。
二人が岸に船をあげ
私達は岸についた。
「トウム!おかえり!!
今回の旅はどうだった?」
「今回は旅じゃないよ。
オオミヤマ様からオオツカミヤ様に
伝言がある。
おられるか?」
「まだ帰ってらっしゃらないわ。
トウムが帰る頃には帰る。と
おっしゃっていたけれど。
それよりも、トウム。
このお方は?」
「あぁ、ヒカホ様だ。」
私は軽く会釈をした。
その子は真っ直ぐした目で
私を見つめた。
「あなたがヒカホね。
私はヒビツカヤ。
オオツカミヤ様から聞いているわ。
トウム。この子をここで?!」
「いや、分からない。
オオミヤマ様は
オオツカミヤ様がご存じだとおっしゃっていた。」
「そう。
ヒカホ。みなは私のことをカヤと呼ぶ。
そなたのことはヒカホで良いか?」
私は頷いた。
「ヒビツカヤは相変わらずだなぁ。」
「あなただけよ。私のことをそう呼ぶのは。」
「おっとうだって
そう呼んでたさ。」
「それは海の上にいた時のこと。
私は今ここにいるの。
ここではカヤなの。」
「わかったよ。ヒビツカヤ。
ヒカホ様もお疲れだ。
さぁ、案内してさしあげよ。」
「ヒカホ。こちらへきなさい。」
私とトウムは
カヤの後について歩いた。
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