“ここ”に刻む(98
「霊巫女。そなたは姿が変われば
自分が変わると思っている。
それは本当の姿ではない。
本当の姿というのは
目に見えるものではない。
見えないけれどあるものなのだ。
私達龍神はその道を司る。
もし、今の姿ではない身で
ヒカホに会ったとしても
そなた達に刻まれたものは
その道が繋げてくれる。
それが私達の役割の一つでもある。
そうして繋がれた時に
姿形が違えども
お互いはっきりとわかる時がある。
それは
どれだけそなた達自身が
自分の内側に出てくる
その声を、その音を聞くことが
できるかにかかっている。
自分を信じるということは
内側に出てくるものを
信じれるかどうかだ。
今目の前にある事に
囚われていては
その内側の声はかき消されてしまう。
霊巫女。
そなたはそなたの内を信じ続けるのだ。
いいか。
これからいう事をよく聞くのだ。
これからそなたの目にする事は
今まで知らない事ばかりだ。
けれど
行先は必ずわかる。
行先を決める。と決めるのだ。
決して諦めてはならぬ。
そなたの魂は今までだって
何度も決めてきている。
必ず行く先がわかるようになっている。
だから
自分を信じるのだ。
人が指し示す道ではなく
心に聞くのだ。
どの道を進むか。
自分に問いかけ続けたら
必ず教えてくれる。
私は姿を見せれない時でも
必ずそなたの側にいる。」
セナがそう言うと
突然強い風が吹き
砂が舞い
霊巫女の目をくらませた。
風が止みゆっくりと目を開くと
セナの姿はなく
海の水面に太陽の光があたり
キラキラとまぶしく
そして美しく輝く姿だけが
そこにあった。
またセナは静かに言葉だけを残し
去られてしまわれた。
霊巫女は両手を胸にあて
ヒカホを感じた。
ヒカホの姿を、声を、想いを
“ここ”に刻むように
決して忘れぬように
息をゆっくりと深く吐きながら
自分の想いと共に刻んだ。
「セナ。私は必ず思い出す。
どんなことがあっても
たとえ姿形が違えども
ヒカホとの約束は
必ず私が覚えておくわ。」
そう“ここ”に刻み
海のきらめきをみつめた。
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