運ばれる先へ(120
「セナ。彼の方はアッディーヤだった。。
私はサッディーヤ。
だとしたら私はだれ。
私は私がわからなくなる。」
「君は君を思い出しただけだ。
君は君で何も変わらない。
ただ思い出しただけだ。
そこがもう一つの君達の創り上げる世界だし
その世界を創り上げるためにここにきている。
それが君を生きることだ。
ヒノコ。君なら大丈夫。」
そういうと、ふわっと
セナが消えたかと思うと
扉が勢いよく開いた。
「ヒノコ!こちらへこい!」
オオツカミヤ様が扉を勢いよく開いて
そうおっしゃった。
何か焦ってらっしゃるご様子はわかった。
私は急いでその扉の方へと向かった。
その扉の外には
オオミヤマ様がいらっしゃった。
「オオミヤマ様!!」
私はかけ寄り、オオミヤマ様に抱きついた。
オオミヤマ様は力強く
ヒノコを抱きしめた。
「時間がかかってしまった。すまない。」
そして
その右斜め後ろには
サハクとヒカホがいた。
「ヒカホ!!!」
私はそのまま、そこで身体が震えて
涙が溢れ出し
泣き崩れそうになった。
ヒカホは駆け寄ってくれて
優しく私を抱きしめてくれた。
「ヒノコ。よかった。
よかったわぁ。あなたが生きててくれて
本当によかった。」
私は言葉を発することができず
涙が止まらなかった。
涙だけが溢れ出して
止まらなかった。
心が震えて
涙が次から次へと
溢れ出してきた。
しゃくりあげるように
涙を流して
ぎゅっとヒカホに抱きしめられながら
身体を震わせた。
「もう会えないかと思った。」
「ヒノコ。会えて嬉しい。
本当に。。嬉しい。。」
ヒカホも泣いていた。
サハクはヒカホに優しく寄り添い
オオミヤマ様は私に寄り添うように
私たちは泣いた。
しばらくすると
「オオミヤマ。そろそろ。。」
そう、オオツカミヤ様がおっしゃった。
オオミヤマ様は
「そうだな。」と答えられた。
私はヒカホに抱き寄せられる形で
オオミヤマ様に向き直した。
「ヒノコ。待たせて悪かった。
これでも私達もいそいできたのだよ。
サハクもヒカホも皆を逃し
劔を守り
私達はトウムの仲間にここに連れてきてもらった。
彼らは海の道を全て知ってるからな。」
「ばぁ様は?じぃ様は?」
「すまない。今はまだ答えられない。
ただヒノコ。もう私たちは進まなければ
ならない。
戻ることはできない。」
「あの場所にですか?」
「あの時にだ。」
「あの過ごした時に戻ることはできない。」
「私達ができることはただ一つ。
龍族の血を守ること。
それだけだ。」
肩を抱くヒカホの力が強くなった。
私はヒカホをみあげた。
「ヒノコ。ただ一つ。
あなたは一人ではないわ。
私もサハクも
そして
オオミヤマ様もいらっしゃる。
どんなことがあっても
みなでひとつよ。」
「ヒノコ。私はそなたを迎えにきた。
ここにヒカホがつくりあげた
劔がある。
これには術がかかっておる。
ヒカホとサハクはここに残り
ここのもの達と共に戦う。
ヒノコ。私はそなたを守る。
ついてきてくれるか?」
私は頭の中が真っ白になった。
またヒカホと別れなければいけないの?
ここで戦う?
またヒカホを失うことになるの?
「私も一緒にここで戦います。」
「それはできぬ。」
オオミヤマ様がおっしゃった。
「ヒノコ。もう時間があまりないの。
私とサハクは必ず熊野へ戻ります。
今私達は
おとりでここにやってきています。
あのもの達が熊野へ入らない為にも。」
ヒカホは強い眼差しで
それでも優しくヒノコを見つめてそう言った。
私は一度ヒノコの目を逸らして
目線を下にやった。
その時
「目の前に起こる形あるものに
惑わされてはならない。
形なきものを創り上げるためにここにいる。」
そうセナの言葉が響いた。
形なきものを創り上げる。
その時
アッディーヤの瞳がうかんだ。
ふと顔を上げると
オオミヤマ様がいらっしゃった。
瞳の眼差しがとてもよく似ていた。
「オオミヤマ様。
私はついてまいります。」
オオミヤマ様は安堵されたような
表情になられた。
「では、早く支度を済ませて
向こうで準備をしておく。」
そう言い放つと
オオツカミヤ様は行かれた。
その方向に
ヒビミカホがいらっしゃった。
「ヒビミカホか!大きくなられたな。」
そうオオミヤマ様がおっしゃった。
「お久しぶりでございます。
オオミヤマ様。
ヒカホ様、サハク様。
遠いところを
ありがとうございます。」
「あなたがヒビミカホ様ですね。
お話は伺っております。
あちらの方にご準備しております。」
「わかりました。
ヒノコ様。
ヒカホ様とサハクは
私がお守り致します。」
優しい暖かい眼差しが
私の心に安堵をもたらした。
母様みたい。
そうふと思った。
「ヒノコ。ヒビミカホ様と
私達も血が繋がっているのよ。」
「そうなのです。
私のお母様とヒカホ様、ヒノコ様の
お母様はご姉妹だと聞いております。」
私は驚いて手を口でおおった。
だから母様を感じたのかしら。
そう思った。
「さ、ヒノコ。
もうあまり時間がない。
ヒカホとサハクは
ヒビミカホと。
私はヒノコとオオツカミヤのところへまいる。」
「わかりました。」サハクがそう言った。
「ヒノコ。大丈夫。
私たちは必ずまた会える。
会えなくても私たちが離れることは
決してないわ。
私はもうそうだとわかったの。
私たちは共にいても離れていても
一緒に生きてるわ。
だから大丈夫。
ヒカホ。これを。」
緑の勾玉をヒカホが渡してくれた。
「お守りよ。共に生きましょう。」
そういうと
私を一度ぎゅっと抱きしめて
耳元でこうささやいた。
「マナヒマナハレマナヒカヤ
マナハレヒカヤマナハレヒ
もう一度必ず会いましょう。」
私は強く頷いた。
そしてヒカホとサハクとヒビミカホは
オオツカミヤ様とは反対の方向へと
向かわれた。
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