北へ(108

瞼が重く感じながら
ゆっくりと瞳を開けてみた。

青空が広がる
眩しくて
しっかり目を開けない。

潮風の香り
頬にあたる少しひんやりとした
空気。
でもどこか気持ち良い。

「お目覚めになられましたか。」

トウムが言った。

「ここはどこなのでしょうか」

「北に向かっております。」

「北とは?」

「今、私達のお役割としては
霊巫女様をお守りする事だけでございます。
北に向かい、あちらで密かに暮らしている者たちと合流致します。」

波は穏やかで
船の揺れもあまり気にならない

でも
トウムの話が入ってこない
理解できない

「霊巫女様。今はどうかごゆっくり
お過ごし下さい。
今起こっている事を
今理解しようとせずに
おやすまりになられて
ごゆっくりお過ごし下さい。」

その優しさ言葉がけに
涙が瞼から溢れてきそうだった。

泣きたい

「涙は自然の摂理。
溢れゆくまで流してあげたら良いでしょう。」

トウムは、私の全てを察して
言葉をかけてくれていた

「ありがとう」

私はそうお伝えすると
溢れてくる涙をそのまま溢れさせ
いつのまにか
また瞼を
閉じた。



「早く逃げるのだ!!」

私の髪は乱れて長く
白い布を纏っていた。

「ここから早く逃げなさい!北に向かいなさい!」

お父様のようなお方が
私にそうお伝えされている。

一生懸命逃げて
足の裏は血だらけになっていた。




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