形見(106

オオミヤマは
マナヒへと向かった

その途中
内側から震えるように
絞り出すような
涙が溢れてきた

ヒノコの御霊を
守りたいと
強く強く思った

離れる苦しさと共に
そばで守れない苦しさが
オオミヤマを襲った

オオミヤマは
本当は
そばにいながら
ヒノコを守りたかったのだ

だが
オオミヤマは向かわなくていけない
オオミヤマの願いとは違う形で
ヒノコを守らなければならなかった

マナヒへ着くと
火は少しおさまり
全体が煙でおおわれてはいたが
先の景色を見渡せるようにはなっていた

匂いは変わらずキツい

この匂いは意識をくらませる
そう判断したオオミヤマは
意図的に意識の道を一度閉じた

そのままマナヒの中へと向かう

そこにある光景に唖然とした

女性の裸体が切り刻まれ
あちこちに転がっている

とても耐えきれない光景ではあった

その時
オオミヤマの右足を掴むものがいた

パッと振り向くと
男性が倒れていた

「こ この この先に
オオスガさ さまが。。。」

と指だけさし
その男は倒れた。

その指先の向かう方へと
オオミヤマは歩んで行った。

そこには
倒れたオオスガと
おなご達、そして
オオスガを抱き抱えるように
倒れている婆様の姿があった。

オオミヤマは
婆様とオオスガに近寄り
二人の様子を確認した。

二人とも
息をしていなかった。


オオミヤマは
オオスガを抱き抱え
息が止まるように
涙を流した。

そしてオオスガの手を握り
「申し訳ない。。もう少し、もう少し
私が早く着いていれば。。」
その時
オオスガの手から何か落ちた。

よく見ると
玉露の勾玉であった。

それは
オオスガとオオミヤマが出会った時
オオミヤマの大事な女子がつけていた物
その子を海へと帰した時に
オオスガは龍神としてではなく
龍族ではあるが人としての道を選んだ。

その時の契りとしての
形見の勾玉の一つだった。

オオミヤマはそれを手に取り
強く強く握りしめ涙した。

必ず
必ず
この地は
私達龍族がいつかもう一度
取り戻す。

必ず
必ず

オオミヤマは
そう心に刻んだ。

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