いつかの風景(96

「婆様。わたしはこれから何をしたら良いのでしょうか。ヒカホの為にも、これからの私達の為にも、私は最善を尽くしたく思います。」

マナヒへと向かいながら霊巫女は言った。
婆様は立ち止まって霊巫女に向かって言った。

「霊巫女様。儀式は次の新月でございます。」

「そんなに早く。。。」

「もう時間がございませぬ。霊巫女様には
残りただ一つ、しなくてはいけない事がございます。

私達女にしかできぬ祈りを、三日三晩洞窟で
捧げる事でございます。

これが最後の決まり。

その禊が終われば、ちょうど新月の晩になるよう
準備をいたします。」

「そうなのですね。では、ここでこのように過ごせるのも二つの月しか見れぬのですね。」

「さようでございます。霊巫女様。
私はその準備を致します。
霊巫女様は心と気持ちの整理をしながら
社でゆっくりとお過ごし頂ければと思っております。」

「わかりました。わたしは戻って時が来るのを待ちます。」

そういうと、霊巫女はまた湖の先の方を
見るように目を向けた。

湖には光があたり、水面がとても綺麗に
輝いていた。

「イヨ様。イヨ様は私と共にマナヒへと向かい
義の準備を致します。このまま向かいましょう。」

「わかりました。」

イヨは霊巫女の方をみた。
そして霊巫女もイヨをみた。

二人とも目を見合わせ
言葉はなくとも
心を合わせるように
共に向かう道を感じあった。

結末がどのようなものなのか
その頃は考える余地もなく
目の前に来ることに
その流れに従う事が
二人にとっての最善でしかなかった。

霊巫女は一人で戻る前に
よく行っていた海に行きたくなった。

「婆様。戻る前に海へ行っても良いでしょうか。」

「霊巫女様。気をつけていただければ
良いです。くれぐれもお一人ということは
忘れずにお気をつけていかれてください。」

「ありがとう。」

皆それぞれが
それぞれの道へと向かい
霊巫女は以前よく一人で
貝をとりに行っていた
海辺へと向かった。

海辺に着くと
もちろん誰もいなかった。

潮風が頬に触れ
キラキラと光り輝く波打ち際は
なんだかとても懐かしく感じた。

嬉しくなって
霊巫女は波打ち際まで行き
足をつけた。

ひんやりと冷たい海の水が
足先を包みながらも
砂浜の暑さを癒すようでもあった。

「気持ちがいいわぁ。」

「霊巫女はここにいると顔がとても幼くなるな。」

突然声がして左の方へと振り向いてみると
そこには微笑んでセナが立っていた。

「セナ!」

「今日は天気も良くて気持ちがいい。
わたしも足をつけてみたく思う。」

そういうとセナは足先を海の中に入れた。

その姿を見ながら
突然いつかの風景がよぎった。

何か生き物のようなものに
棒が刺さり、とても苦しそうだった姿。
その棒が抜けたら、すぐさま傷が治りはじめていた事。

そんな風景を突然と思い出した。

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