いつか(94

オオスガはオオアマとイヨ、ヒカホ、サハク

そして婆様を呼び、霊巫女の儀を

次の新月にすると告げた。

もうすでに、月はかけ始めている。

新月まで、もう数日しかない。

「そんなにはやく。。。」

婆様が言われた。

「時がない。サハクとヒカホには

いそいでミトに戻ってもらい

私達は早急に準備にとりかかる。」

「しかし、霊巫女の準備は…

あの子はまだ何も知りませぬ。」

「霊巫女には、龍神がついておる。

時があの子を連れてくる。

婆様はマナヒの準備を。

わたしとオオアマとイヨは

ここに残り準備を進める。」

オオスガの決意に皆は口を閉じながらも

心を合わせていた。

いよいよ始まるのか。

イヨはこの時はまだ、事の大きさを

さほど感じてはいなかった。



サハクとヒカホは船に向かった。

「ヒカホ。身体に気をつけるのだよ。

私はいつだって、ヒカホの無事を願っている。」

「婆様。。。」

ヒカホは婆様に優しく抱きついた。



「さ、ヒカホ。行こう。」

そうサハクがいい、船から手を差し出した。

その時

「ヒカホー!ヒカホ!」

遠くから声がした。

草が茂り、風に揺られて、姿がはっきりとは

見えなかったけれど

ヒカホはハッとした。

「ヒカホー!ヒカホー!」

ヒカホはその声の方へ視線を向けて

身体を船から岸へと向けた。

「霊巫女様!!」

そこには、走って駆け寄ってくる

霊巫女の姿があった。

ヒカホも走り出し霊巫女の方へと向かった。

二人は思いっきり、抱き合った。

「ヒカホ。ヒカホ。。。会いたかった。。

ヒカホ。。。」

霊巫女の目からは涙がボロボロと溢れた。

「霊巫女様。。。わたしも、あ、会いたかった。もう、もう会うことができないかと。。。」

二人は涙を流しながら抱き合った。

二人は、言葉を交わすこともなく

涙し、お互いの温もりを

大事な家族のそばにいる

安らぎを共にした。

「霊巫女様。間に合ってよかった。」

婆様が二人に近寄り、霊巫女の肩を撫でた。

「婆様。婆様。ありがとう。。やっとやっとヒカホにあえた。
わたしはずっとずっとヒカホに会いたかった。」

「私もです。いつも霊巫女様の身体を

元気かどうか。どうか元気であって欲しい。

それだけを願って過ごしておりました。」

二人は顔を見合わせて、涙を流しながら

言葉を交わした。

「二人とも。本当にすまない。

そなた達を離したいわけではないのだよ。

わたしだって、そなた達二人のそばにいてやりたい。」

婆様も目に涙を浮かべた。

二人は子供のように、婆様に抱きつき

涙した。

婆様はすっかり大きくなった二人を

婆様の腕で抱き返すことは

できなくなっていたが

力一杯抱き返した。

「ヒカホ。霊巫女。」

そこに爺様がやってきた。

「二人にはさみしい思いをさせてばかりで

申し訳ない。けれど、これは龍族を

守る為だ。

そなた達は、その血を守る為に

選ばれておる。

いいか。そなた達の御霊が別れることは

決してない。

そなた達の思いさへ、本物であれば

どんなに姿形を変えようとも

必ず、また再会する。

そして、必ずその時に、気が付ける。

そなた達が願いさへすれば。

そなた達がまた会いたいと

共に願いさへすれば。

二人はしかと、今ここで思いを

共にしておるであろう。

共に乗り越えようとしておる。

共に真の思いを交わしている。

その、共にした思いが強ければ強いほど

姿形が変われど、必ず出会える。

その時に、また共にあれる。

今が必ずつながる時がある。

今を大事にしたのならば

今を真に過ごしたのなら

信じるのだ。

そなた達が別れることはない。

お互いを信じ合うのだ。」

二人は手をしっかりと握った。

「霊巫女様。わたしは必ず

劔をカムイへわたし、必ず霊巫女様に

会いに行きます。」

「ヒカホ。。。」

「さ、そろそろ船も出る。ヒカホ。

サハクの元へと戻るのだ。」

「ヒカホ。わたしは私達を信じるは。

必ずまた会える事を信じる」

二人は最後に抱き合い

霊巫女は腕につけていた

腕輪をヒカホに預けた。

「これは。これは霊巫女様の母様の形見。」

「私達の形見よ。」

「わたしは必ず会いにきます。」

二人は

強く思いを交わして

ヒカホはサハクの元へ

向かった。

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