一つ星(110)
どのくらい時間が過ぎたかわからない。
揺れの中で意識は朦朧としていた。
「ヒノコ様。こちらへ。」
トウムが手を差し出した。
とても小さな手だった。
私より小さいのではないかしら。
でもその手を握ると、柔らかくて暖かかった。
「やっと波も落ち着いてまいりました。
よく頑張られた。
あの波の中、耐えられる方は中々おりませぬ。」
ふと
婆様が話してくれたことを思い出した。
私達は海を渡りながら、東へ東へと
一つ星を目指して航海した。と
私達のご先祖様は
海を渡りながら、島々で血を残し
この地に辿り着いた。と。
「いいかい。ヒノコ。
諦めてはなりませぬよ。
会いたい気持ちがある方があなたの
人生に現れたのなら、必ず会えます。
私達は一つ星を目指して東へ東へと
向かった支族
戻ってはなりませぬ。
進まなければならない。
戻りたくても
いつかの時へ戻りたくても
戻ってはなりませぬ。
進むのです。
見えなくても
現れてなくても
触れられなくても
戻ってはなりませぬ。
わからないままでいいのです。
見えないままでいいのです。
現れないままでいいのです。
それでもそのまま進みなさい。
そしたらいつか必ず
姿形が変わったとしても
必ず会えますから。
大丈夫。安心なさい。
それがあなたの好きな歌の意味よ。
マナヒマナハレマナヒカヤ
マナハレヒカヤマナハレヒ」
お母様との会話が聞こえた。
お母様とはこんなお話した記憶はない。
でも婆様ではなく
お母様の声で聞こえた。
そして私はこのうたがとても好きだった。
マナヒマナハレマナヒカヤ
マナハレヒカヤマナハレヒ
なんだか小さなトウムの手の温もりが
運んでくれた
そして
その小さい手は表面は冷たくとも
どんどん暖かくなり
そして
小さく小刻みに震えているのがわかった。
しっかり私を守ろうとして下さるトウム。
けれど私よりも小さいこの方も
不安の中、一生懸命守ろうとして下る。
そのトウムから伝わってくるものに
私はとても支えられていた。
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