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「日本人の優しさ~漫画家・楠勝平の世界~」

良い書籍に出会った時の感動はいつだって筆舌に尽くしがたい。その感動をどれだけ情熱的に語っても「百聞は一見に如かず」実際に読んでもらわねば、その情熱の一片も相手側には伝わらない。だが、己が情熱を揺さぶった作品を相手に伝えたいという心からのエモーションが書評や読書会という分野を作り上げてきたのも事実。noteの片隅ではあるが不特定多数の誰かに「伝える」という作業にこそこそと勤しんできた私のような人間にもそのようなパッションは勿論ある。

今回、私がこの場で紹介したい作品は決して今をときめく人気作や抜群の知名度を誇る名作に分野されてはないかもしれない。しかし、物語の良さは抜群でじんわりと読み手に良い読後の滋味を与える本当に素晴らしい作品群なのだ。ストーリーで読書を読ませる作品が好みの私にはこれ以上ないくらいドンピシャだった・・・。

私がここまで熱っぽく語る、その作家の名は楠勝平氏。夭逝の天才漫画家である。そして、私が今回この場で強くお勧めしたい作家だ。

生前、漫画雑誌「月刊漫画ガロ」で活躍した楠氏は主に江戸時代を舞台にした漫画作品を多く残した。人情ものから悲恋、愛憎など人倫の関係性に対して優れた視点から作品を紡いできた作家だ。

「アラベスク」「日出処の天子」などの作品で知られる漫画家・山岸凉子先生のセレクトによる作品集が出版された(何を隠そう私もこの一冊が楠勝平作品との出会いだった)がそれ以前は殆どの作品集が古書以外などでは入手が難しい状況だった。

「ガロ」といえば白土三平氏や滝田ゆう氏、佐々木マキ氏、つげ義春氏などの諸作品が後のサブカルチャーに大きな影響を与えた漫画史に残る偉大な雑誌であるが「実験的」「革新的」ともすれば評価されることもある同誌に於いて氏の作品は前述したように人がいる社会に目を向け、人倫とそれによる心の揺れ動きを見事に捉えた作品が素晴らしいのだ。

例えば「おせん」という代表的な作品があるのだがこれは身分差による心のすれ違いの悲恋を描いた作品であるのだが、環境、社会、状況・・・それらが人に言わせる言葉の一つ、一つが心にぐっと染み入ってくる・・・。誰も悪くない。世も悪くない。だが、結末には人の世の悲哀が読後としてしっかり伝わってくるのだ。

親子の極限の愛を描いた「ゴセの流れ」子供の目線から見た生と死の季節「彩雪に舞う…」などなど・・・お勧めは殆ど全ての作品であり、そして皆名作だとここで断言したいくらいである。

以前、私がnoteに書いた敬愛する山本周五郎作品と楠氏の作品を読むとオーバーラップすることも多い。コミュニティへの視点があり、人倫への愛があり、そして何より人間を信じること・・・。
どれだけテクノロジーが発達し、時代が変わり、言葉が変化しても根本はずっと私は日本人らしさ(この曖昧さが議論の対象になりがちなのだが)を信じて生きていたい。
そして、楠勝平氏や山本周五郎氏のような日本人を見つめ、人情も義理も哀愁も苦難も・・・全てひっくるめて生きる姿を描いた「優しい日本人」を肯定し、私もそうなりたいのである。

ジョルノ・ジャズ・卓也

友人でありライターの草野虹氏と「虹卓放談」というPodcastをやっています。よろしければこちらも視聴していただければ幸いです。



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