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書評「特攻服少女と1825日」

ここ数年フィクションの世界でヤンキー漫画が原作である「今日から俺は!!」や「東京リベンジャーズ」の実写化やアニメ化の成功により、ヤンキーや暴走族の世界にフィクションを通してではあるが、にわかに注目が集まった。そのような作品を通して、日本のヤンキーカルチャーに興味を持った人も若い世代には一定層いるのではないだろうか?

今回、紹介する書籍である「特攻服少女と1825日」の作者である比嘉健二氏は「ティーンズロード」というレディースを専門に取り扱った雑誌の元編集長である。
(レディースをご存じない世代の方もいる事を考慮し、簡単な補足説明を入れさせていただくと一般に女性向けを対象とした商品を指す言葉としてのレディースではなく、ヤンキーや暴走族において女性のみで構成された集団の総称として使用されていた言葉がレディースである。今回、書評内で使用している「レディース」はそちらの意味で基本的に使用している。詳しくは比嘉氏の著書を参考にしながら理解を深めていって貰いたい)

本書は「ティーンズロード」という一時代を築き上げたレディース雑誌の元編集者が雑誌を通じて出会い、雑誌作成の上で大きな契機となった数人の少女たちの過去・現在のエピソードを軸にしながら当時を回顧するスタイルが主にとられている。

今作は平成初期のヤンキーや暴走族がまだまだ、活発だった時代の空気感や当時の少女たちのリアルなエピソードが取材者・編集者だった目線から公平かつ誠実な筆致でパッケージされており、レディースといえども男性の暴走族と変わらない厳しいルールや礼儀の部分があるかと思えば、女性特有の悩みや問題もある。また、暴走族隆盛時代特有の、今ではおそらく起きないであろう出来事から現在に通ずる、若者社会からはみ出してしまった少女たちの生き方や素直な気持ちの吐露がテンポとバランス良く描かれており、読み手を最後まで飽きさせることなく本書は進んでいく。

男性のヤンキーや暴走族が社会論やフィクション作品のタネとしてピックアップされがちだが、日本にかつてあった硬派な「ヤンキー文化」はレディースというもう一面を持って完成していたのだろう。そのことを本書は教えてくれる。
また、社会学に於いて若年女性のキャラクターテーマとしては「ギャル」が好んでとりあげられてきた印象が強く、近年ではそれに「ぴえん系」が加えられたイメージだ。

しかし、間違いなく「レディース」に所属し、硬派に生きた少女たちは雑誌のメインテーマになるほどの人数が平成初期には存在していた。レディースが…いや、暴走族自体が全盛期に比較すると殆ど存在せず、フィクションの世界でしか見ることのない今だからこそ、彼女たちをある時代の若年女性の一つのキャラクターテーマとしても読める形で令和のこの時代に真摯かつ読み応えのある書籍として我々に届けてくれた筆者の力量に感服である。

また、今作で作者の比嘉氏は第29回小学館ノンフィクション大賞を受賞している。その事実も納得の優れた作品であり、多くの人に読んで欲しい傑作である。

追伸:ライター、編集者の角由紀子氏のYouTubeにて作者の比嘉健二氏が今作について述べている動画がUPされているのでそちらもおススメである。

ジョルノ・ジャズ・卓也

友人でありライターの草野虹氏と「虹卓放談」というPodcastをやっています。よろしければこちらも視聴していただければ幸いです。


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