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山口百恵「ドラマチック」レビュー

山口百恵さんが戦後日本音楽史に残る偉大なシンガーであるという事は多くの人が同意してくれるだろう。
アイドルからキャリアをスタートさせ、女優、歌手へと急激な成長を遂げ、その人気が頂点に達した瞬間に引退した。

おおよそ考えうる芸能界のサクセスストーリーの頂点を極めた彼女ではあるが以外にも正当にアルバムなどが音楽レビューされている印象があまりない(それは当時の時代性もあったのかもしれないが・・・)

百恵さん(以降、この呼称を使用する)ファンのブログなどを拝見すると後期のアルバム。特に横須賀ストーリー発売以降の百恵さんが宇崎竜童氏、阿木燿子氏とタッグを組み、アイドルという存在より頭一つ抜けてからは特に素晴らしい作品が多いとの意見が散見された。
そこで一百恵さんファンとして、そして音楽を愛する人間として個人的に名盤だと考える三枚を今後、全3回に分けて(不定期ではあるが)全曲レビューという形で紹介していきたい。今回は「絶体絶命」や「プレイバックPart2」が収録されたアルバム「ドラマチック」をレビューしていく。

1,「サンタマリアの熱い風」
アルバムのOPを飾るのは情熱的なスパニッシュナンバー。壮大で高らかにアップテンポで歌い上げるpartとしっとりと中音でサウダージにじんわり聴かせるpartのMixが非常秀逸。情熱的だが悲哀を帯びたその歌詞は成熟した感性の持ち主であるシンガーにしか歌いこなす事は難しいだろうな・・・と冒頭から唸らされるナンバー。

2,「幻へようこそ」
シティポップ前夜の魅了の女性ヴォーカルナンバー。幻想的で引きこまれるようなサウンドや反復メロディパターンはとてもクセになる。何より、百恵さんの浮遊感と幽玄が合わさったような声が魅力的。

3,「蜃気楼」
当時、音楽界でのブームであったニューミュージックな雰囲気の一曲。ストロークの効いた効果的なギターや百恵さんのトーキングパートが印象的である。恋を朧げな蜃気楼に例える歌詞も秀逸。

4,「絶体絶命」
大名曲。特徴的なイントロに宇崎氏作曲のエッジなギターサウンドが全編を支配する中、百恵さんは数秒のイントロの後に発した力強い言葉で完全に「絶体絶命」という曲を一気に掌握した。三角関係というともすれば扱いが難しくなりがちな難テーマを精神的強さで見事に「かっこいい」という解決方法を示した。

5,「水鏡」
しっとりと歌いあげられる歌謡曲。「絶体絶命」とは一転し、しのぶ恋が芯の強い歌声で表現されている。この表現力の幅広さも百恵さんの魅力である。

6,「ヒ・ロ・イ・ン」
非常にロマンチックな一曲。歌詞もまるで短編小説を読んでいるかのような余韻を感じさせる優れたもの。そして、何よりその余韻は百恵さんがその歌詞理解により作り出しているのだ。

7,「空蝉」
サビでの百恵さんの歌いあげ方に感服。丁寧に歌を積み上げていき、サビでその表現力を綺麗に開花させる方法は見事。曲名にもある「空蝉」という言葉一つとっても発声の意味合いを変えていくのは流石の一言。

8,「或る女・・・或る日」
このアルバム収録された中で最も特徴的な編曲がされた曲。当時の先端バンドミュージシャンのアルバムのB面に収録されていてもおかしくないその独自サウンドに真っ向から取り組み自分のスタイルと合致させて、良曲に昇華させる百恵さんのハイセンスさがわかる一曲。

9,「霧雨楼」
一人の女性の情念とでもいうべき感情が静かな焔のように燃えている印象を受ける歌詞。それは恐らく人並みの生活を送ってきたわけではないのだろうな・・・と予測が出来るのだが、しかし恨むでもなく明朗に開き直るでもなくその複雑な恋情の機微が歌われている。個人的にアルバムの中で最も好きな一曲。

10.「プレイバックpart2」
日本歌謡史に残る大傑作。特に歌詞面での女性の正直な意見表明や日常生活に於ける何気ない一コマが表現に強いインパクトを与える構成などが良く語られるが、百恵さんの繊細な歌唱表現をギターが強い援護をしたり、大胆な途中でのブレイクの入れ方などサウンド面でもトータルで全く欠点が見当たらない、百恵さんが天下を獲ることを約束した(と今となって思えば)一曲なのではないだろうか。

ジョルノ・ジャズ・卓也

友人でありライターの草野虹氏と「虹卓放談」というPodcastをやっています。よろしければこちらも視聴していただければ幸いです。



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