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書評「ゾンビ最強完全ガイド」

「ゾンビ」という存在を全く知らない。
という人は現代社会に於いては稀であろう。
有名な映画やゲーム、漫画等のポップカルチャーでゾンビはその姿を何度も描写されてきた。

大衆の中に共通のイメージが根付くほどには、市民権を得ているだろう。
しかし、『では「ゾンビ」とはいったい何なのかを言語化し、説明せよ』と、言われると少し困ってしまう。生気がなく、目は虚ろでフラフラと集団で彷徨う、生者と死者の間にあるような存在というイメージは伝えられても、それ以上をすぐに言語化するのは中々難しい。

映画好きなら巨匠ジョージ・A・ロメロ監督のゾンビ映画を例にあげて、説明するかもしれないし、もう少し詳しい人はゾンビ発祥の地である、ハイチのブードゥー教に触れながら話を進めるかもしれない。

今回、紹介する書籍『ゾンビ最強ガイド(原題 Zombies: A Cultural History)』その「ゾンビ」の歴史から文化に至るまでを体系的かつ多角的に検証と論考し、一冊の本として纏めたものである。

民俗学・歴史学的な視点から読み解きがスタートし、そこからゾンビがいかにエンターテイメントの世界で娯楽として許容されるようになったのかというポップカルチャー論へと話は広がり、また、ゾンビが暗示や比喩してきたものを、社会学的な視点からも指摘する作者の力量には脱帽である。

「ゾンビ」に対して、一つの専門領域(民俗学や現代視覚研究など)からのみ言及すると、どうしても語れる範囲が狭まってしまう。

しかし、ジェネラリストの知性を感じる、著者の筆致は、ゾンビの世界がこんなにも奥深いものだったのか!と新鮮な驚きを読者に与えてくれる。
まさに、書名の通り、ゾンビとは何か?を知るガイドとして、これ以上ないくらいうってつけであり、現代ポップカルチャー研究のお手本といえる、完成度の非常に高い一冊でもある。

ジョルノ・ジャズ・卓也

参考文献
ロジャー・ラックハースト 著
福田 篤人 訳『ゾンビ最強完全ガイド』(エクスナレッジ 2017)

友人でありライターの草野虹氏と「虹卓放談」というPodcastをやっています。よろしければこちらも視聴していただければ幸いです。



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