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小説の中の色 #9 永谷園のお茶漬け袋の色

「君の笑った顔、虫の裏側に似てるよね。カナブンとかの裏側みたい」

「死にたい夜にかぎって」  爪 切男

学生時代、学校で一番可愛い女の子にそう言われた主人公の恋愛遍歴を描いた小説「死にたい夜にかぎって」。ユーモア満載で、笑いながら読みましたが、面白いだけでなく、主人公の愛と優しさがじんわりと伝わってくる暖かい作品です。

個性的な彼女のダイナミックな色使い

主人公がネットで知り合い、リアルで一目惚れし、一週間後に一緒に暮らし始めたアスカは、変態に唾を売って生計を立てていたちょっと変わった女の子です。

ヘビースモーカーのアスカが愛用している自作のプラスチック製たばこケースもかなり個性的です。

外にはさまざまな色のビーズ玉を張り付けて装飾が施されている。赤、黄、緑、黒色のきれいな横縞模様を作っていたが、配色的に永谷園のお茶漬けの袋にしか見えなかった。

「死にたい夜にかぎって」  爪 切男

この表現に、思わず吹き出してしまいました。女の子の持ち物の色を表現するのに「お茶漬けの袋」って…。
しかし、面白いだけでなく、しっかり伝わります。赤・黄・緑・黒 と色名で説明されるよりも、「永谷園のお茶漬けの袋」といわれた方が、一瞬であの力強い配色が目に浮かびます。歌舞伎のイメージもある配色ですが、永谷園の方が身近で、主人公の生活感も同時に伝わってきます。

因みに、この配色は色彩検定2級で学ぶ「配色イメージ」では「ダイナミック」というイメージに分類される組合せです。

張り付けられたビーズ玉に「黒」が入っているということは、キラキラした透明感のあるものではなく、マットタイプのものですね。マットタイプでこの4色となると、派手さに加えある種の地味さもあり、若い女の子らしからぬ色と質感です。

出来上がりをあまり考えず、好きな赤をメインにして、カラフルに黄色、緑、大人っぽい黒も…、-と色を加えているうちに、結果的にこういう配色になってしまった。アスカのキャラクターからそのような光景を想像をしてしまいました。そんなアスカが大好きです。



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