無敵のチリビーンズ。
僕の料理のルーツを語るとき、必ず出てくる3つの料理がある。キノコリゾットにカルボナーラ、そしてチリビーンズ。
どれも料理を学ぶ原動力になっていて、常に、初めて食べたときの衝撃と感動を「いつか絶対再現してやる」と思っていた。
おかげさまで、この3つの再現については、だいぶ前にコンプリート。今はまた新しいミッションがスタートしているけれど、この3つの料理にはそれぞれにストーリーがある。
今回はその中でも一番ポップ?なチリビーンズのお話。
昔、まだ僕が高校生の頃の話だけれど、旅行で行った清里清泉寮ビジターセンターで、初めてチリビーンズなるものを食べた。確かカレーライスのようにご飯にチリビーンズをかけたスタイルだった…
この時は、高原の景色とテラスで食べた開放感が記憶として刷り込まれて、味というよりも全体の満足感が印象に残っている。
大学生になって、目黒駅前のウェンディーズでチリビーンズを食べたときは、なぜだか得意げだった。清泉寮の満足感を覚えているから、ファストフード店のチリビーンズでさえも、恐らく他の人よりは満足度が高い…。そんな思いが得意げにさせたのかもしれない。きっと僕はニヤついていたんだろうな…。イヤなヤツだ。そういえば、ウエンデーズは5年ほど前に日本から撤退したものの、昨年また日本に戻ってきた。ちょうど先日、上野駅前で発見。コレはウレシイ。
ここで思うのは、味の満足感ではなく、その時間空間トータルの満足感に含まれる味の記憶は、とっても強いな…という事。その時を思い返すだけで、美味しさを感じる脳細胞が活発に動き出す。
ココまでは序章で、このチリビーンズを僕の中で不動のものにしたのは、社会人になってからの話。
大学を卒業して某アウトドアブランドで働いていた時、カスタマーサービスのツアーのヘルプで福島の小野川湖のカヌーミーティングに参加した。ホスト側なので、お客様の食事やキャンプサイト関連の準備をするのがお仕事。
そこでカヌーの上で食べるために仕込んだ料理が、チリビーンズだった。
コレが実にキャンプらしい料理で、きっと清泉寮の記憶とすんなりと繋がったのだと思う。
ただこのチリビーンズ、僕は仕込みを手伝ったものの、ほとんどチリビーンズには触れていない…。
さて、このチリビーンズ、前の日の晩に仕込み、朝火入れをして、グツグツした鍋ごと真空調理器に入れて、カヌーの上へ持ち込む。
紅葉の小野川湖は最高のロケーションで、紅葉の中を進む約10隻のカナディアンカヌーのパーティはBE-PALの表紙を飾れるくらい完成されたビジュアル。ちょっと冷たい風と暖かい日差し、そして紅葉。パドルストロークを学びながら進む事2時間。いよいよちょっと早めの昼食に。
みんなリュックからシエラカップを出して、チリビーンズの乗ったカヌーに近くのだけれど、そんなにも寄れないから、カヌーのパドルの上にシエラカップをのっけて、湖の上で昼食を配る。
コレがまた優雅なんだな…。カヌーのパドルに、チリビーンズの入ったシエラカップ、それがカヌーからカヌーへ、リレーされて配られる。
このスペシャリティ感がたまらない。
これが先日のグランピングのラグジュアリー感も叶わない、アウトドアブランドのカスタマーサービス本気のチカラである。
この記憶が清泉寮の記憶に上書きされているから、ある意味、死ぬまでこの記憶がある限り、チリビーンズは僕のテンションをアゲ続ける。
コレは他の2の料理にはない要素で、本当に特別。レシピなんかそんなにこだわらなくったって、チリビーンズの時点でテンション上がるんだから、そんなに料理でガンバル必要もないんだけれど…。頑張っちゃうんですよ。
ポイントはクミンの使い方と、タマネギの量と、チリパウダーの辛さ。クミンはパウダーとシードを両方使うのが香りがたって良い。
今のところ、カヌーミーティング以上の、チリビーンズの記憶のアップデートはない。まさに無敵のチリビーンズ状態。
チリビーンズを一生美味しく食べられる権利を与えられているようなものだから、アップデートする必要もないんだけれど、できる事なら、美味しく食べられる仲間を増やしたいな…と思う今日この頃であります。
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