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待てる40代。

基本、世の中の多くの物事は、出来立てよりもある程度時間を置いて熟れ(こなれ)させた方が深みが増す。ウィスキーやワインなんかはその点では分かりやすい。もちろん出来立てのフレッシュさを味わうのも素晴らしいけど、その価値はやはりフレッシュな時にしか無い。新酒しかり、ボージョレー・ヌーボーしかり。

出来立て!という言葉には、ココロをグッと引き寄せるチカラがある。パン屋さんで「バゲットが焼きあがりました!」なんて言われながら大きなカゴに並んだ焼き立てバゲットを出されると、食べるのは夜なのにもかかわらず、「ハイハイ」と買ってしまう。
収穫したてのトマトなんかももちろん美味い。挽き立て打ち立て茹で立ての蕎麦も美味い。
どちらも鮮度の低下に従って味は落ちていく。
こんな風に鮮度に価値があるものも世の中に多くある。

話を戻すと…熟れ(こなれ)てきた味を理解するには、コチラ側も熟れている必要がある…と最近よく思う。
若い頃はメリハリついた味を好んで食べていたし、人と口論するにも相手に逃げ場なんか与えなかった。今すぐ結論や結果が欲しかったのだ。
今すぐ結論や結果を出すことに慣れると、長いスパンでのモノづくりやチームづくりの思考は弱くなってくる。少なくとも僕はそうだった。

僕が燻製づくりをはじめたきっかけは、どの本を読んでも「世の中の燻製づくりは多くの時間を要する」というところにあった。これにメラメラと内なる炎が燃えた。
つまり、時間を要する燻製のアンチテーゼ的に、僕の作る燻製は短時間で、時間をかける燻製よりも手軽で美味い!というコトの証明をし
たい!と考えたのだ。

結果、味を早く浸透させるための料理の仕組みを覚えたり、燻製のメカニズムを覚えたりと、それなりに知識や技術をつけてきた。僕の作る燻製は、基本仕込み工程から実食まで、必ず1日以内で美味しく楽しめるものになった。これはキャンプやワークショップなどではとても有効に働いた。
そう、ヒトはそんなに長い時間を待てないのだ…

…とばかり思っていたのだけれど、40歳を過ぎた頃から、待つことを楽しめるようになってきた。
40歳を過ぎた僕が作る燻製やテリーヌなどには、スパイスのほかに「時間」が価値として加わった。

先日、沢山のニジマスをいただいた。
既に丁寧に腹を開いてあって内臓は綺麗に取られていたから、寝る前に僕は時間をかけて滑りをとり、塩、黒胡椒、砂糖、ローズマリー、バーボンでソミュール液を作って、ジップロックで真空にしてニジマスを漬け込んだ。

布団の中で目を閉じて、冷蔵庫の中でソミュール液がニジマスに浸透していくコトを思う。
ニジマスの細胞がMAKERS MARKのリッチなバーボンを喜んでいる。
「そこに好きなだけ浸かっているといいよ」と言ってみる。
ジップロックの中でニジマスの目がコチラを見ている気さえする…。

翌日夜、グデングデンに酔っ払ったニジマスをジップロックから出し、2時間ほど流水に入れて塩抜きをする。ちょろちょろと水の流れる音が田んぼの水路を思わせる。
そんな水音をBGMにソファーで本を読みながら、夏の日に水路に迷い込んだニジマスを思う。「まあ、とりあえず水風呂にでも入って酔いを覚ましなさいよ…」

水風呂が終わると、ニジマスを1匹ずつ丁寧にキッチンペーパーで拭いてやる。ここでしっかり拭いてやることで燻製は美味しくなる。
外側の水分を全て拭き終えると、腹に楊枝を噛ませてバットに並べて再び冷蔵庫へ。
一晩かけて冷蔵庫の中の冷風に宛てて内側の水分を乾かす。

明日はどんな風に煙にあてようか…と考えながら眠る。

そして仕込みから実に3日が経っていよいよ燻製に。今回はヒッコリーのスモークウッドにピートパウダー、コーヒー、ザラメ砂糖を加えて70℃を保って3時間燻すコトに。所謂温燻と言われる温度帯。柔らかくしっとりした燻製にするのが狙いだ。

3時間後に美味しそうな色に仕上がった時点でもまだ食べ時ではなくて、これから熟成。再び冷蔵庫の中へ。ここからがまさに熟れてくる工程。

どうやって食べようか?と…
待てる40代は思考を巡らせる。

こんな風にして僕は「待てる40代」を迎え、気がつけばもう40代も半ばに突入。
色々なコトを経験させてもらって、今はそれらの経験の一つ一つをスパイスとして熟成中。

僕自身にはもうフレッシュな味わいはありませんが、熟成モードに突入しはじめたので、管理方法さえ間違えなければ、更に深みを増していく予定です。
ただ、一つ間違えると熟成ではなく腐敗に進んでしまうので、腐らないようにしていきますね。
腐ってしまうと、長期熟成したワインやウイスキー、エイジングビーフ、江戸前寿司、それにヒトやモノの本当の価値が分からなくってしまうので…

…という記事を自分への注意喚起も含めて書いてみました…。



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