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僕の幼少期を知る人は少しずつ少なくなっていく。

歳をとってくると幼少期の自分を知っている人の存在が年々貴重になってくる。20年前に東京の八王子から飛騨古川に移住したから、そう言った僕の抜群にカワイくて100%無邪気な幼少期から思春期を知っている方々と、文字通り距離を置いた生活を続けてきたせいか、たまに実家に帰った時にそんな方々を通して幼少期の自分の知らない一面やエピソードを聞くと本当に嬉しく、年々その思いは強くなっていく。
というのも、歳を追うごとに僕の幼少期を知る方々がこの世を去っていってしまうからだ。

3年前に僕ら夫婦の仲人でもある叔母が亡くなり、昨年母と大の仲良しの親戚のおばさんが亡くなった。そして、先日、3年前に亡くなった叔母の旦那さんで同じく仲人である叔父が旅立ってしまった。もう僕らの仲人さんは2人ともこの世にはいない。
3人とも僕の幼少期をよく知っていて、ウチの居間でお酒やお茶を飲みながら、とても嬉しそうに語る。
飛騨の家に遊びにきてくれる時なんかは、夜は大体そんな昔の話に花が咲いた。
僕も若い頃は「またその話か」と思っていたけれど、なぜだろう、近年昔の話が心地好い。そこには僕の知らない、第三者から見た僕がいたりする。
最近、平成最後にちなんで昔の音楽を流す番組が増えているが、耳に入るとなんだか温かく懐かしいくなる感覚。そんな懐かしい音楽を聴いているような心地好さがある。

だから、そんな幼少期の僕をよく知っている(大抵とってもお世話になってきた)方々がお亡くなりになると、僕の幼少期の記憶の一部が欠けて無くなっていくような感覚にとらわれる。
そんな記憶を取り戻すかのように、一年に数回飛騨の家で両親や叔父、また兄と過ごす機会に、昔の話に花を咲かせる。それぞれの目線で語られる事で様々な角度から光があてられるから、昔話がだんだんと立体的になってくる。

先日の叔父の通夜振る舞いや壇払いの時に、叔父さんの家のアルバムを回し見た。
そのアルバムのいたるところに、幼少期の僕や兄が写っている。
「お前らのこんな写真もあるんだぞ…」
「お前らの父ちゃんと母ちゃんの結婚式の写真だぞ…」
「いやぁ、ホント、楽しかったよなぁ…」
そんな叔父さんの声が聞こえてくるようだ。

叔母の時もそうだったけど、叔父とのお別れも突然やってきた。叔母が亡くなった時、僕らは会える時間の大切さを痛感した。いつも後悔が
無いように、両親や叔父が東京に帰る朝は、それなりの覚悟をもって挨拶した。
「じゃあね。また今度ね。気をつけて帰ってね」
でも、今度会える確証なんてどこにもない。
気がつけば、僕らは…僕たちの両親やその世代は…そういう歳になっているのだ。

そんな風にして、僕の幼少期を知る人は、少しずつだけれど少なくなっていく。
叔父の告別式の時、両親から「こういう事は笑って話せる内に話しておいた方がいいな…。お父さんの葬式の時はな、BGMはこれで、遺影の写真はあそこの引き出しに入れておくからそれを使ってくれよ…」なんて言われた。
ウチの父親とは、昔、久世光彦の「マイラストソング」という本を読んだ時、父親のラストソングはコレにしてくれ、とわれたのをしっかりと覚えている。
こういう話を父親とは笑って話せても、母親とはしんみりしてしまうのは、おそらくマザコンのせいだ。

僕の幼少期を、その遺伝子レベルまでいちばん良く知っている両親とするのは、昔話ではなく未来の話。
こういう話をしながら、一緒に過ごせる時間が今は本当に愛おしい。

話は少し変わるけれど、先日葬儀で八王子に帰った時、24年ぶりに、若い頃好きで良くいったイタリアン・レストランに行った。24年前とは場所も変わってずいぶんと立派になっていたけれど、僕が料理をやるきっかけの1つになった「カルボナーラ」の味は変わっていない。変わっていないというのは24年分の思い出に負けない味だということ。

会計の時にたまたまオーナーシェフがレジに立っていたので
「24年ぶりなんです」
と話しかけてみた。
「あ、じゃあまだ前の店舗の時ですね」
「そうそう、スタジオの横にあった時」
「あの頃はカルボナーラとシーフードサラダが好きで良く食べていました」

そんな会話をしてみると、なんとなくお互いが共有していた24年前の時間を振り返ることができる。
まさにこのレストランの幼少期の話をしていた。

「だからこそ今がある」と月並みだけど強く思う。いろんな人に支えられ、いろんな時間を歩んできたから…そして、それなりの歳になったからこそ、この言葉の重みが理解できる。

僕の幼少期を知っている人は少しずつ少なくなっていくけれど、それに変わるようにして誰かの幼少期を知る人になっていく。
誰かの幼少期を上手に語れるようになって、それが誰かの今にしっかり繋がってくれると良いのだけれど…

そんなことを最近よく思うのです。
写真は幼少期のボクです。
抜群に可愛いでしょ…。
面影が少なさすぎなのが悲しいですが…

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